毎朝、研いだ米を8時間以上、冷水で浸漬し、鮨を握る直前に羽釜で一気に炊き上げる。炊き上がり直前、柏手を打って「今日もおいしくできあがっていますように」と念じる。修業時代から続ける習慣の一つ(写真=山本倫子)
毎朝、研いだ米を8時間以上、冷水で浸漬し、鮨を握る直前に羽釜で一気に炊き上げる。炊き上がり直前、柏手を打って「今日もおいしくできあがっていますように」と念じる。修業時代から続ける習慣の一つ(写真=山本倫子)

「当時、憧れの読売ジャイアンツには、その黄金時代を築き上げた伝説のピッチャーが2人いました。一人は豪速球で知られた江川卓でついた異名は怪物。私が憧れたのはドラフト外で入団し、その後、反骨精神でエースにのし上がった西本聖でした。天才肌の江川よりも雑草魂で這い上がった西本に共感したんです」(杉田)

 ところが、そんな夢もあっけなく潰えてしまう。きっかけは6年生の夏、県の選抜チームへの招集だった。地元ではエースで4番。しかし、満を持して参加した2週間の遠征試合では、代走はおろか一度も試合に出場できず、補欠でベンチを温めるだけに終わった。実力の差は明らかで、完全に井の中の蛙は何とやらだったのだ。

「今だからこそ冷静に振り返ることができますが、当時はその現実を受けとめることができませんでした。どうして僕が……。悔しいを通り越して、胸の奥で何かがポキリと折れる音がしました」

 杉田のスポーツ人生は終わりを告げる。その後、地元の中学校に進学するが、あれだけ好きだった野球には一切、目もくれない。友人に誘われバレー部に入るも中途半端。やがて、生活態度もだらしなくなり、学校の成績も落第ギリギリの日々が続くようになる。

とにかく、カッコいい大人でありたい。常に身だしなみや言葉遣いを気遣い、自分を律して意地を張る。その後ろ姿を慕って弟子が追いかける(写真=山本倫子)
とにかく、カッコいい大人でありたい。常に身だしなみや言葉遣いを気遣い、自分を律して意地を張る。その後ろ姿を慕って弟子が追いかける(写真=山本倫子)

 その頃、杉田の人生に大きな影響を与えるテレビドラマに出合う。東京・下町の鮨屋に弟子入りした青年が、一人前の職人になるまでを描いた「イキのいい奴」だ。そこで描かれた職人の粋で一途な姿に憧れた杉田は、高校時代、千葉駅近くのショッピングモールに出店していた鮨店でアルバイトをするようになる。

(文中敬称略)

(文・中原一歩)

※記事の続きは AERA 2022年3月21日号でご覧いただけます。

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