近年の「ロシアの戦争」は、さまざまな手段を組み合わせた「ハイブリッド戦争」だと言われてきた。廣瀬さんによると、「軍事的な戦闘に加え、政治、経済、外交、プロパガンダを含む情報・心理戦などのツールのほか、テロや犯罪行為なども公式・非公式に組み合わせて展開する」戦争だ。ロシアにすれば、国際社会からの経済制裁は「西側が仕掛けるハイブリッド戦争」であり、ゼレンスキー大統領が各国で行う国会演説も情報・心理戦という意味で「ロシアへのハイブリッド戦争」ということになる。

 ロシアは、プーチン大統領自身が「SNSは兵器」と語るなど情報戦に力を入れてきた。しかし、「今回は大失敗している」と廣瀬さんは話す。

「ロシアの通信機器は非常に旧式で米国に簡単に傍受され、手の内はウクライナにも筒抜け。それを恐れてロシアは情報を極力出さなくなった。その結果、情報が司令官レベルでとどまり、末端まで情報がうまく流れず混乱するという悪循環に陥っている。それがハイブリッド戦争の全体像に影響しています。ウクライナのSNS発信が国際的に好意的に受け入れられ、すべて好循環なのと対照的です」

■ごまかし戦闘を続ける

 ロシア国防省幹部は3月25日、「特別軍事作戦の第1段階は達成。ドンバス(親ロシア派支配地域があるウクライナ東部)住民の解放に集中する」と述べた。だが、廣瀬さんは「現段階ではキーウを諦めたと断定はできない」としたうえで、プーチン大統領の狙いをこう見る。

「ウクライナを屈服させるためにキーウ陥落は必須。でも、難しくなった。特別軍事作戦が始まって1カ月がたち、何も成果がないのはなぜかと国民から疑念の声が出る頃。『第1段階、成功』は苦肉の策でしょう」

「ただ、プーチンは『キーウを取るのが最終目的』と明言したことはないんです。その意味で『東部制圧で第1段階成功』は言行不一致でもない。おそらく今後も、1カ月後くらいに『第2段階はここまで成功』など、言行不一致にはならない成果をひねり出しつつ、ごまかしごまかし戦闘を続けるでしょう。そんななかで民間人に対し、非人道的な異常性に満ちたロシアの攻撃も増えていく。残念ながら、暗い見通ししかないのが現実です」

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年4月11日号より抜粋

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