停戦交渉が断続的に行われるなか、ウクライナに侵攻したロシア軍の民間人攻撃が止まらない。プーチン大統領の狙いは何か。AERA 2022年4月11日号は、国際政治に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授に聞いた。
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ロシア軍によるサリンやVXガスなど生物・化学兵器の使用も懸念されている。廣瀬さんは「使われるのは首都キーウ(キエフ)の可能性が高い」と指摘する。
「キーウは落としたい。でも、日本で言えば京都みたいな街で重要な教会などもある。砲撃で破壊すればロシア、ウクライナ両正教を敵に回すことにもなる。街を温存しつつ勝利するために生物・化学兵器はロシアにとって都合がいい。かつロシアは『米国の支援の下、ウクライナの工場で生物・化学兵器が作られている』と主張してきた。使用してもウクライナの自作自演にしてしまえば痛くもかゆくもない。いまキーウへの進軍が停滞しているのは生物・化学兵器を使った場合の自軍への影響がないエリアまで後退させている可能性もあり得ます」
そんななか、ロシア最大の民間軍事会社・ワグネルの傭兵1千人以上がウクライナ東部に投入されていると、ロイター通信が英国防省情報部の話として伝えた。ワグネルは2千~3千人の戦闘要員がいるとされる、2014年創立の組織だ。オーナーのエフゲニー・プリゴジン氏はロシア政府との関係も深く、「プーチン大統領の料理長」の異名を持つ。廣瀬さんはワグネル投入の「別の狙い」をこう語る。
「他の民間軍事会社と比べても軍事的手腕にたけ、最強と言われています。ゼレンスキー大統領はじめ、よりウクライナ中枢に近い人をより多く殺害、捕虜にする任務を負っているのでは。民間軍事会社は表向きロシア政府と関係なく、登記もロシア国内にはない。最悪『外国の義勇兵がやった』とも言えます」
■通常兵器が足りない
一方、ロシア軍はウクライナ軍の最新兵器に苦戦しているとも報道されている。
「ロシアの軍事費は実は少なく米国の8%未満。雲泥の差です。そんななかでも軍事大国の『ふり』をするために核兵器など最先端兵器にお金を振り向けているので、通常兵器ミサイルや弾薬の補給が追いついていないと言われています。最近、ロシアは海上発射型巡航ミサイル『カリブル』や極超音速ミサイル『キンジャール』を撃っていますが、隣の小国ウクライナに使うような兵器ではありません。通常兵器が足りていないので仕方なく撃っているという見立てが正しいと思います」