撮影:深沢次郎
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【写真特集】写真家・深沢次郎さんの作品をもっと見る

 深沢さんにインタビューを申し込むと「食事でもしませんか」と、誘われた。

 当日、待ち合わせたJR藤野駅(相模原市)から深沢さんの車で山道を走った。10年ほど前、「田舎暮らしに憧れて」、東京からここへ引っ越してきたという。

 木のにおいがするようなレストランに到着し、車を降りると、眼下に早春の山々が広がった。レストランには小さなギャラリーが併設され、2年前、ここで写真展を開いたという。

 テーブルにつくと、当時の写真展案内を手渡された。そこは雪に半分埋もれたようなシカの頭が写っていた。

「何か悲しい顔をしているじゃないですか。うちのかみさんから『あのころ、ずっとこんな目をしてたよ』って、言われました」

 2019年、深沢さんは多感な大学時代をいっしょにすごした友人、鶴岡一生さんを失った。写真展はその気持ちの整理をつけるためだった。

 深沢さんはここに飾った写真を元に、新たに構成した作品「よだか」を4月7日から東京・目黒のコミュニケーションギャラリーふげん社に展示する。

「この2年間は、悲しみを昇華する作業だったと思うんです。前回の写真展は、もう悲しみで、ずぶずぶだった。今回はそれをちょっと昇華できたかな」

撮影:深沢次郎
撮影:深沢次郎

■「奇麗だから、撮りに来いよ」

 かつて鶴岡さんが暮していたのは美ケ原高原に近い長野県上田市武石地区。

「それこそ、水道がないような山奥です。彼は集落のいちばん外れに一軒家を借りて、畑と炭焼きをしていた」

 炭を作るには、適当な長さ切った広葉樹の原木を炭焼き窯で蒸し焼きにする。鶴岡さんは頃合いを見て、「奇麗だから、撮りに来いよ」と、深沢さんを誘った。

「炭焼きを撮ったのは2010年です」 と、深沢さんは言い、今回の作品を取り出した。

 闇夜に光るオレンジ色の小さな釜の入り口。その周囲には石を積み上げた釜の壁がぼんやりと写っている。

「釜の中は1000度もあるんですよ。撮ったら、すぐ逃げないと。もう、溶ける、みたいな感じで」と言い、深沢さんは釜の入り口でカメラを構え、シャッターを切った瞬間、身をよける動作を実演して見せてくれる。

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凍った滝を目指した2人