<可哀想に 何かつらいことがあったんだね… 聞いてあげよう話してごらん>(童磨/16巻・第141話「仇」)

 しかし、しのぶの悲憤は童磨がもたらしたものだ。童磨は「自分自身が生み出した」しのぶの辛苦をどのように救済しようというのか。

<つらいも何もあるものか 私の姉を殺したのはお前だな?>(胡蝶しのぶ/16巻・第141話「仇」)

■童磨の言葉の矛盾

 愚かでかわいそうな人間のために、彼らを喰って救済するのだと童磨は語るが、この主張には矛盾がある。彼は過去に、ある鬼殺隊の隊士(※当時、乳児)とその母親を助けたことがあった。その女性は、夫の暴力がひどく、片眼が失明するほど殴られていた。童磨はそんな彼女を教団内で保護した。

<寿命が尽きるまで手元に置いといて 喰べないつもりだったんだけど>(童磨/18巻・第160話「重なる面影・蘇る記憶」)

「救済」のためにと数々の信者を喰いながら、一方で童磨は、彼女には寿命をまっとうさせようとしている。

<喰うつもりなかったんだよ 心の綺麗な人が傍にいると心地いいだろう?>(童磨/18巻・第160話「重なる面影・蘇る記憶」)

 彼女は童磨にとって好ましい人間だった。それゆえ、彼女を一時的にとはいえ、「喰う=救済」の選択肢から外した。つまり童磨は「喰う」行為が何をもたらすのか知っていたはずである。

■童磨の心を変えたしのぶ

 童磨にとって「女」は、肉体を強くするための良質な食糧だった。

<いやあ それにしても今日は良い夜だなぁ 次から次に上等な御馳走がやってくる>(童磨/17巻・第143話「怒り」)

 ここで童磨が言った「御馳走(ごちそう)」とは、胡蝶しのぶとその弟子・カナヲのことを指している。しのぶの姉にも「優しくてかわいい子だった」と言いつつ、「喰べ損ねた」ことを惜しんでいた。その時点で、胡蝶姉妹は童磨にとって特別な存在ではなかったことがわかる。外見の美しさも優しさも、それだけでは童磨の心は動かない。

 そんな童磨であったが、しのぶが鬼殺隊の仲間たちを思い浮かべて、自然にほほ笑んだのを見た瞬間、彼の心は一転する。

<これが恋というやつかなぁ 可愛いね しのぶちゃん 本当に存在したんだね こんな感覚が もしかすると天国や地獄もあるのかな?>(童磨/19巻・第163話「心あふれる」)

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童磨はなぜ妓夫太郎と梅を救ったのか