<命というのは尊いものだ 大切にしなければ>(童磨/11巻・第96話「何度生まれ変わっても<前編>」)
のちに遊郭の鬼になる、瀕死(ひんし)の梅と妓夫太郎を「救済」したのは、この童磨で、人間社会から見捨てられ、さげすまれてきた彼らに、二度と他者から搾取されない「強い力」を与えた。
しかし、優しいセリフを口にしながらも、童磨は“喰いかけ”の女性の遺骸を手にしていた。「命を大切にしなければ」と妓夫太郎にさとしつつ、自らが殺害した女性の命には目もくれない。優しい悪魔――これが童磨のみせる二面性だ。
■童磨を「仇」(かたき)とする胡蝶しのぶ
鬼殺隊の9人の柱の中で、もっとも童磨と因縁が深いのは、蟲柱・胡蝶しのぶである。彼女の実姉・カナエは童磨に殺害されている。
<鬼に最愛の姉を惨殺された時から 鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に 絶望の叫びを聞く度に 私の中には怒りが蓄積され続け 膨らんでいく>(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)
童磨は人を喰う行為を「救済」だとし、血肉を食べることによって、鬼の体内で「永遠」の時が人間に与えられるのだと言う。
<俺は“万世極楽教”の教祖なんだ 信者の皆と幸せになるのが俺の務め その子も残さず奇麗に喰べるよ>(童磨/16巻・第141話「仇」)
そして、童磨は「死後の世界は存在しない」と強く主張する。
<可哀想に 極楽なんて存在しないんだよ><神も仏も存在しない>(童磨/16巻・第142話「蟲柱・胡蝶しのぶ」)
■対立する童磨としのぶ
神仏が姿を現さないこの世界で、人間が人間を傷つけるこの世の中で、童磨は神仏とは違う方法で「救済」を行おうとした。
<気の毒な人たちを幸せにしてあげたい 助けてあげたい その為に俺は生まれてきたんだ>(童磨/16巻・第142話「蟲柱・胡蝶しのぶ」)
おそらく童磨が「教祖」として他者を助けてやりたいと思ったのは真実だろう。自分の誕生の理由すら、「救済者」としての役割の中に見いだしているからだ。そして彼の「救済者」としてのまなざしは、しのぶにも向けられる。