■童磨の複雑な内面

 思い起こせば、童磨が妓夫太郎たちを鬼にしてまで救おうとしたのは、彼らの戦闘への才覚もあろうが、妓夫太郎が彼の目の前で妹を守ろうとした場面だった。妓夫太郎の腕の中には妹がいた。彼がかつて寿命をまっとうさせようとしたあの女性にも、腕の中には息子がいた。辛苦も恐怖も死すらを遠ざけようとする彼らの愛の「抱擁」は、童磨の「記憶」に何かを残した。

 そして、童磨はしのぶの慈愛の表情を見て、初めての「感情」を感じた。彼がその胸にかき抱き「吸収」した、しのぶによって、童磨の内面に変化がおとずれたのである。

 人を喰い、吸収すること、自分の血肉とすることは、童磨なりの「抱擁」だったのか。ではそんな童磨を誰が抱いてくれたのだろうか。アニメ版『鬼滅の刃』がシリーズを重ねるにつれて、童磨の本質がより明らかになっていくはずである。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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