芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、はじめて絵を描く人へのアドバイスとメッセージ。
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この前は絵の見方でしたが今週は「はじめて絵を描こうと考えている人へ向けてのアドバイスとメッセージ」ですね。
そんなセオリーがあるんだったら僕も知りたいです。僕は物心がついた頃から絵を描いていましたが、誰からも教わったわけでもなく、一人っ子で友達もいないので、絵を描くぐらいのことしかなかったんだと思います。今でも子供は画用紙とマーカーを与えると絵を描きますよね。ほとんど本能のように描いているじゃないですか。これでいいんです。
このまま絵を描き続けていて気がつくと画家になっていたという人は沢山います。僕もその内のひとりかも知れませんが、僕の場合は、絵を描くのが三度のメシより好きというわけでもなかったように思います。幼児の頃はすることがなかったので絵を描いていたわけで、まあ遊びの延長ぐらいに考えていたような気がします。
ただ僕は今の子供のように好き勝手に思いついたまま描くという児童画や想像画や、写生などには全く興味がなく、誰かが描いた絵をそっくり写す、つまり模写することが好きだったのです。今の子供でもマンガを模写しますよね。それと同じです。ただ僕の違うところはマンガみたいな単純な絵を模写することには興味がなく、写実的な絵を模写することに快感がありました。
現存する僕の模写画は「講談社の絵本」の<宮本武蔵>の巌流島の決闘シーンを描いた絵ですが、これは5歳の時の絵で今の絵とさほど変らないように思います。右下の佐々木小次郎の両足は実際の絵には描かれていなかったので、別の頁のサムライの足の部分を移植して、コラージュしたものです。
現在残っている子供の時の絵はこの一枚だけですが、当時、他にも沢山描いた記憶はあります。高校になって油絵を描くまでは、誰かの挿絵の模写や映画スターの肖像画ばかりで、将来、画家になろうなんて全く考えもしないし、ただ模写だけに興味があったように思います。