激しい戦闘で建物が破壊されたシリアのアレッポ旧市街/17年1月撮影
激しい戦闘で建物が破壊されたシリアのアレッポ旧市街/17年1月撮影
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 ロシアのウクライナ侵攻にとどまらず、世界各地で紛争が続いている。戦争や武力紛争や主権の侵害の要因は何か、そして日本経済にもたらす影響とは。「世界情勢」を特集したAERA 2022年4月25日号の記事から紹介する。

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 ウクライナ侵攻以外にも、世界では多くの戦争や武力紛争が続く。日本は戦後、幸いにして武力紛争の当事者となったことはない。だが北方領土返還に向けたロシアとの交渉は頓挫し、竹島を占拠する韓国との対立が続くなど火種も抱えている。

 元国連日本政府代表部大使で大阪大学大学院の星野俊也教授(国際政治学)は、戦争や武力紛争の要因をこう解説する。

「大別すると『アイデンティティーの対立』『資源や権益の獲得競争』『政治権力をめぐる闘争』の三つがあります。単純化はできず、複数が複雑に絡み合って実際の衝突にいたります」

 アイデンティティーの対立とは、民族や宗教、文化などの違いから生じる。資源や権益の獲得競争は領土や資源、水など物理的な資産を巡る戦い。1947年以来3度の戦争を経て近年も衝突が続くインドとパキスタンの対立は、カシミール地方の帰属をめぐる争いが主因だ。

 政治権力を巡る闘争は、軍事クーデターや、逆に独裁政権に対する民衆の反発を武力で封じ込めようとして起こるケースが多い。ミャンマーの軍による民衆弾圧などが記憶に新しい。

 そしてもうひとつ、ウクライナ侵攻の原因ともなったと星野教授が指摘するのが「敗者のノスタルジア」だ。

「ソ連崩壊の屈辱を出発点に強大なロシアを取り戻すのがプーチンの基本理念。いわば強国だった時代へのノスタルジアです。これは『中華民族の偉大な復興』を目指す中国や、オスマン帝国への憧憬(しょうけい)から強権化が進むトルコ、カリフ制国家復活を掲げるイスラム国(IS)にも当てはまります。さらに、冷戦終結後西側がロシアのメンツを歯牙(しが)にもかけなかったように、『勝者のおごり』がノスタルジアを強めた面もあるでしょう」

■アフリカで衝突が頻発

 星野教授がいま、紛争のホットスポットとして注視するのがアフリカだ。2021年以降、マリ、チャド、ギニア、スーダン、ブルキナファソで軍事クーデターが連鎖的に発生した。ギニアのように国内では好意的に受け止められる場合もあるが、深刻な衝突に発展した例もある。

「権威主義的な国ほど紛争が多く、コロナ禍の社会不安も加わり、政治権力をめぐる争いが顕在化しています。また、混乱に乗じて暴力的過激主義グループも暗躍します。ですが、国連安保理は自国中心の大国の分裂で動けずにいます」(星野教授)

 また、20年11月にエチオピア北部で起きたティグライ紛争は重大な人道危機を引き起こした。集権化を図る政府とティグライ族主体の政党の衝突だ。今年3月24日に政府が停戦を宣言したが、予断を許さない。「アビー首相は隣国エリトリアとの和平でノーベル平和賞を受けていますが、ティグライ紛争では過酷な弾圧を続けています。紛争が大規模な飢餓などにもつながっていて、事態は深刻です」(同)

■日本も無関係ではない

 アジアでも戦火が絶えない。民主化デモがきっかけとなったシリア内戦は様々な勢力が乱立し、多くの犠牲者や難民を生んだ。イエメン内戦ではサウジアラビアやUAEの支援を受ける政権派とイランやロシアが後押しするフーシ派、イスラム過激派が入り乱れ、終わりの見えない人道危機が起きている。

 星野教授はこう言う。

「尊い命が失われているのはウクライナで起きていることと同じです。そして遠く離れたアフリカの戦火でもレアメタルなどの輸入が混乱したり、輸出マーケットが閉ざされたりして日本経済にも影響を与えます。私たちと無関係の出来事ではありません」

(編集部・川口穣)

AERA 2022年4月25日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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