とはいえ、完全にスキャンダルだけの人になってしまっていたら、死の印象は違っていただろう。彼は迷走に見えた期間も生きざまを曲にして歌い続けたし、初期に生み出した曲やイメージが彼をスキャンダルだけの人にはしなかったといえる。

 これはどういうことか。

 87年3月に放送された「北の国から’87初恋」(フジテレビ系)で彼の曲が流れた。脚本の倉本聰が黒板純役の吉岡秀隆に若者向けの音楽について尋ね、教えられて気に入ったのだという。なかでも「I LOVE YOU」は純の恋のBGMとして有効に使われ、ファン以外からも高い人気を得た。

 これにより、ファーストアルバムの収録曲に過ぎなかったこのバラードは広く世に知られることに。91年にはシングルカットされ、JR東海のCMソングにもなった。彼にとって生前最大のヒット曲であり、代表作のひとつだ。

 ちなみに、死後も含めた最大のヒット曲は「OH MY LITTLE GIRL」である。こちらは94年に月9ドラマ「この世の果て」の主題歌に使われ、ミリオンセールスを達成した。ファーストアルバムに収録されたバラードのラブソングというところも「I LOVE YOU」と同じであり「北の国から」での成功もヒントになったと思われる。

 なお、プロデューサーの大多亮によれば、尾崎は生前から「ぼう大な数のタイアップ依頼を断り続けていた」という。それでもなお、大多が彼のこの曲にこだわったのは「澄みきった純粋な声」と「都会の片隅に暮らす孤独な男と女の物語」に他の歌手にはない魅力を感じたからだ。ブレーク当初はもっぱらそのメッセージ性が注目されたが、せつなくピュアなラブソングの作り手・歌い手としての魅力が認知されたのは彼にとって幸福なことだった。

 また、彼のイメージを守ったものに、少女マンガがある。80年代後半「別マ(別冊マーガレット)」系の作家として人気を博した紡木たくは「みんなで卒業をうたおう」「机をステージに」「ホットロード」などの作品に十代の尾崎を投影させた。なかでも「瞬きもせず」には尾崎を思わせる「聖」という歌手が登場、主人公たちに影響を与える役割を果たすのである。

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