ピョートル:はやぶさ2は長期に渡るプロジェクトでしたが、メンバーのモチベーションを高めて維持するために、津田さんはリーダーとして現場で具体的にどんな指示を出していましたか?
津田:打ち上げ後に入ってきた若手メンバーたちは、事前につくられた計画に従って淡々と業務をこなすということになりがちですが、それだと創意工夫は生まれない。だから計画をしっかり理解してもらった上で、「計画上の制約はいったん取り払って、自分だったらはやぶさ2を使ってどんなことができると思う?」という言い方で若手メンバーたちをけしかけていました。
考えた結果は、プロジェクトの成功に直接関わらなくてもかまわない、論文を書いてもいいし、海外に行って研究発表してきてもいいですよ、と。そういうことを認めると、ある種、仕事を奪い合うようなかたちでいろいろな解析が回りますし、「機会さえあれば自分はこういうネタを持っているぞ」という頼もしい若手がたくさん育ってくれます。そこに3年くらい時間をかけました。
■「運」を味方につける方法
ピョートル:チームマネジメントというのは、メンバーが最高のパフォーマンスを出せることを支援してくのが仕事ですよね。そういう意味でマネジャーはスポーツのコーチに近い。要は、練習ではいろいろなことを試して、指示したり、フィードバックしたり、もう面倒くさいほど会話をするけれど、試合になったらメンバーは圧倒的な自由を与えられてパフォーマンスを発揮する。津田さんは典型的なコーチ、もう名コーチですね。
津田:私自身はコーチングの勉強をしたことがなくて、もう我流なんですが(笑)。ちょどはやぶさ2がタッチダウン(着陸)するときにラグビーのワールドカップがありました。ラグビーチームのミッションもタッチダウンですけれども、監督はフィールドにはいませんよね。けれども、選手たちは一つの生命体のように非常に有機的に動いている。彼らはどんな練習をしてきたんだろうかとか、私もいろいろ感じることがありましたから、たしかにスポーツに通じるところはありますね。