AERA 2022年5月2-9日合併号より
AERA 2022年5月2-9日合併号より

『性食考』は、人間は性行為と食べるという行為を混同する非常に珍しい動物であると指摘しています。よく、「食べちゃいたいほどかわいい」と言うでしょう。性行為と食は人間の生の中で一続きであり、それが人間の文化の本質だという。独自の視点から人間を眺めた良書です。

『ヒトの目、驚異の進化』も同様です。人が色を見分けられるのは、従来は葉の緑からフルーツの熟した赤を見分けるためと言われていました。けれどこの本は、敵や味方の表情の、微細な色の違いを見るために進化したのではと分析している。このように時には常識から外れて新しい視点を発見し、発想することが科学の第一歩です。

『動物になって生きてみた』は、生物学者が動物と全く同じような暮らしをした話です。アナグマやカワウソやキツネになってみると、こんなふうに世界が見えているんだ、彼らは危機をこう感じているんだと実感することができる。僕の場合は研究対象がゴリラで、身体の構造生理が似ているからやすやすと入っていけます。だが、アナグマやキツネは夜行性で穴に棲み、食べるものも人間と明らかに違う。自分とはかけ離れた動物にも、筆者はあえてなってみる。動物学者はこうでないといけない。人間の世界に閉じこもっていたら、わからないことがたくさんある。それが科学のおもしろさであり、冒険なんです。

(構成/編集部・井上有紀子)

AERA 2022年5月2-9日合併号