下重暁子・作家
下重暁子・作家
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、花粉症について。

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 今年は花粉が多いといわれていたが、私も両眼が腫れ上がってしまった。まず、左の下瞼が赤くなり、その段階では、痛くも痒くもなかったのが、次の朝起きたら右瞼が腫れ上がり、二重瞼が一重瞼になった。痒くて仕方ない。こんなにひどいことになるとは!

 マスクと眼鏡でごまかしていたが、ともかく痒さを治めなくては……と薬屋で買った目薬をさしたら、ともかく痒さだけは治まった。もともと花粉症はあったので、気をつけて薬も飲んでいたが、二日ほど雨で飲まなかったのが響いたのか。

 それにしても今までは鼻に症状が出て、つまって息がしにくく頭痛もあった。それはそれで辛かったが、目が痒いので思わず掻きそうになり、寝ているうちに触ったりして、治りにくい。うっとうしくて見た目もすっきりしない。

 ようやく五日ほどして腫れは引いたが、油断すると指を目尻に持っていきそうになる。

 私が子供の頃には、花粉症などというものはなかった。

 花粉は飛んでいたはずだから、戦中戦後のたいへんな時期、花粉症などにかかっているひまもなく、花粉症はぜいたく病だったのか。そういえば花粉症とは、どことなくなまめかしい命名ではある。

 ほんとうに花粉症はなかったのか。調べてみると、その頃の花粉は杉も檜もブタクサもみなきれいで、清潔な花粉だったから病にはならなかったという。

 では近年季節病のように繰り返す花粉症とは何か。花粉が汚れているから病気になるのだそうだ。

 花粉そのものに罪はない。きれいな花粉が、空気中で大気汚染に巻きこまれ、汚れてしまう。

 結局、人工的な病なのだ。

 山場の杉林や檜林の近くに住んでいる友人がいる。彼らは、花粉症になどならないという。黄色い花粉が手に触れるほど近くにあるのに。なぜか?

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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