人工内耳の仕組み
人工内耳の仕組み

「補聴器は音の振動のエネルギーを大きくしますが、振動を電気信号に変える有毛細胞が傷んでいると、エネルギーを大きくしても脳は音を認識できません。人工内耳は音を電気信号に変換して聴神経に伝えるので、有毛細胞が傷んでいる難聴の人にも効果的なのです」

 人工内耳の対象となるのは重度難聴の人、もしくは高度難聴で補聴器をつけた状態での最高語音明瞭度(言葉を聞き分けられる程度)が50%以下の人だ。以前は重度難聴の人だけだったが、2017年に適応対象が広がった。

 人工内耳は、側頭部に植え込む体内装置(インプラント)と体外に装用する「サウンドプロセッサ」からなる。サウンドプロセッサが外から拾った音を電気信号に変換し、インプラントに送信。電気信号は蝸牛に挿入した電極を伝って聴神経を刺激し、脳に送られる。

 蝸牛に電極を植え込むためには、手術が必要だ。耳の後ろを切開し、電極を挿入する。手術時間は1~3時間程度。全身麻酔でおこない、1週間程度入院する。

 術後は傷が治るのを1~3週間待ってから、サウンドプロセッサを装用して音を聞く。初めて人工内耳を使って音を聞くことを「音入れ」と言う。

「音入れをしたらすぐに会話できるわけではありません。人工内耳で重要なのは、音入れ後の機器の調整やトレーニング。電気刺激のレベルを調整するほか、人工内耳特有の音に慣れていく必要があります。脳が人工内耳の音色に慣れてくれば、昔聞いていた音と変わらないという人もいます。会話ができるようになるので、生活の質が格段に上がります」(田渕医師)

 近畿大学病院耳鼻咽喉科前主任教授の土井勝美医師は、人工内耳の手術対象となる人に必要な情報が届いていないと話す。

「現在は機器や手術の進歩により、合併症が起こりにくく、高齢者でも安全に手術を受けられます。機器も小型化、軽量化し、体内に装置を入れたままMRI検査を受けることもできます」

■補聴器を使えない人にも有効

 伝音難聴は、中耳炎や外耳の病気などによって起こる。病気を治療すれば難聴が改善することもあるが、十分に回復しないこともある。さらに補聴器を装用しても効果がない、または生まれつき外耳道が形成されていない、持続的な耳だれがあるといった理由で補聴器を装用できない場合に選択肢となるのが、「人工中耳」もしくは「骨固定型補聴器(Bahaシステム)」という二つの手術だ。伝音難聴と感音難聴が合併した混合性難聴の人も対象になる。

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人工中耳と骨固定型補聴器