佐野元春責任編集のもと発行されていた雑誌「THIS」(C)デイジーミュージック
佐野元春責任編集のもと発行されていた雑誌「THIS」(C)デイジーミュージック

 その根底にあるのは言うまでもなく、優れたソングライティングだ。日本語の響きを活かしながら洋楽的なリズムと共存させるセンスと技術は、(桑田佳祐と並び)90年代以降のアーティストにも大きな影響を与えている。

「つまらない大人にはなりたくない」(「ガラスのジェネレーション」)

「ステキなことはステキだと無邪気に/笑える心がスキさ」(「SOMEDAY」)

「今までの君はまちがいじゃない」(「約束の橋」)。

 時代の雰囲気、人々の価値観の変化を反映しながら紡がれる佐野の歌の魅力は、最新作『ENTERTAINMENT!』(佐野元春&ザ・コヨーテバンド)でも存分に発揮されている。コロナ禍でダメージを負った人々に寄り添い、元気づけ、鼓舞するような楽曲が揃った本作。特に「明日になれば/悲しいことも忘れるよ」と語り掛ける「いばらの道」は強く心に残った。

 書籍「ソングライターズ」のなかで佐野は「つまりソングライティングとは、自分と他者との間に“共感”を取り付けていく、そのような行為と言えると思います」と記しているが、その真摯なスタンスもまた、佐野が多くのリスナーを惹きつけ続ける要因なのだと思う。

 筆者は何度か佐野さん本人にお会いする機会を得たが、ライブ直後に前のめり気味に「佐野さんのファンでいてよかったです」だの「“ガラスのジェネレーション”のメッセージを真に受けて、ここまで来ました」だのと言う私に対して佐野さんは、ちょっと困ったような笑顔を浮かべながら、こう言うのだった。

「ありがとう。光栄です」。

 その言葉を聞くたびに筆者は(アラフィフになったのに)「なんてカッコいいんだ。こんな大人になりたい」と思うのだった。

(森 朋之)

佐野元春さん(C)デイジーミュージック
佐野元春さん(C)デイジーミュージック

佐野元春(さの・もとはる)/1956年東京都生まれ。1980年3月にシングル「アンジェリーナ」でデビュー。1982年のアルバム「SOMEDAY」が大ヒットとなる。1983年には単身渡米し、ヒップホップの要素を取り入れた意欲作「VISITORS」を制作。その後も「Young Bloods」「約束の橋」など数多くの名曲を生み出す。2009年からはTV番組『佐野元春のザ・ソングライターズ』(NHK)でホストを務めるなど、デビュー以来、第一線で活躍し続けている。現在は佐野元春&THE COYOTE BANDとしても活動。2022年は、3月に芸術選奨文部科学大臣賞を授賞されたほか、4月からは全国ツアーを開催、7月にはニューアルバムをリリースするなど、話題が続いている。

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