
また、栃木県足利市の国道沿いに現れる屋台が舞台の「小さな屋台カフェ 千夜一夜物語」(20年3月6日放送)では、強風のためお店を開くことができない日があった。
「本来なら大ピンチのはずですが、休むことを決断した店主さんの苦渋の表情には引きつけられるものがありましたし、翌日になって屋台を訪れた常連さんの様子から、その場所が心のよりどころになっていることが際立ちました」
市井の人々が語る言葉
番組を構成する要素のほぼすべてを占めるのは、現場で出会った市井の人々が語る言葉だ。そのぶん、コロナ禍による影響も大きい。感染拡大防止のため、飲食店でのロケができないなど、今なおさまざまな制約の中での制作を余儀なくされている。
しかし、篠田チーフ・プロデューサーは「だからこそ、変わらないことや普遍的な部分を描こうという思いを強くした」と話す。
「放送後にSNSなどで反響をいただきますが、『自分ももうちょっとだけ頑張ってみよう』という共感の声がすごく多くて。コロナ禍になって生活様式は変わりましたが、その変化を主軸にして描くよりも、『自分の隣でこの人は生きているんだな』という確かな手触りを感じられる番組でありたい」
昨年の夏、番組視聴者を募ってオンラインによるファンミーティングを開催した。その中で、「『ドキュメント72時間』のキャッチコピーを考えてください」というお題を出した際に、ある参加者が考えたコピーが強く印象に残っているという。

「“『ドキュメント72時間』は今を覗(のぞ)く小さな窓である”と答えてくださって。すごくいいなと、そうありたいなと思いました。たとえ同じ現場でも、季節が変われば違うものが見えてくると思うので、企画が尽きることはありません。まだ見ぬ72時間をこれからもお届けしていきたいと思います」
小さな窓の向こうに、人それぞれの今がある。私たちには、まだまだ知らない世界がたくさんある。(編集部・藤井直樹)
※AERA 2022年5月2-9日合併号