「工場の物流を考えてみましょう。例えば、部品を運ぶ自走式のロボットにはAIが必要です。工場は自動車組み立てに関するオートメーション化、効率化が非常に進んでいるのです。そこには多様なオプションへの対応や、労働力不足を補うシステムの構築なども含まれます。これは結果的に病院のオートメーション化にも非常に役立つはずです」

■日本はITや医療AI化の後進国

 これを医療分野だけで完結しようとすれば、専門の企業や技術者が少ないため、規模も小さくなり、コストも高くなってしまう。さらに医療ではさまざまな規制があって認可が必要になる医療機器が多いため、そこを乗り越えるのには時間もかかる。

 だからこそ、他の産業で構築したAIの技術を医療に応用する、中田医師が「カスケード型の医工連携」と名付けたやり方がよいのだという。カスケードとは「いくつも連なった滝」のこと。AIで用いられるアルゴリズムはどの産業においても同じであるため、技術進歩の上流にあたる自動車産業や精密機械産業で培ったAI技術を、下流にあたる医療などの分野に応用するといったイメージだ。

 実は、そうしなければならない理由もある。中田医師が問題視しているのは、“日本のAI技術の遅れ”だ。

「正直言って、日本はIT業界において後進国です。AppleやGoogle、マイクロソフト、amazon、Meta(旧Facebook)は世界をリードしていますが、それに引っ張られるような形でアメリカではベンチャー企業が台頭してきています。一方日本では、アメリカと同じくらいベンチャー企業はありますが、浮き沈みが激しい業界ということもあり、できては消えて……という状況です」

 それは医療のAI化においても同じだという。

 世界ではDX(デジタル変革)の波が押し寄せている。皮肉にも、AI開発が急速に発展したきっかけとなったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。海外では、コロナ病床をロボットが自動で紫外線消毒したり、AIカメラを利用して感染の危険性がある人を振り分けたり、コロナ肺炎の診断を支援する画像診断装置も開発されたりと、AIを用いた医療機器が誕生し、実用化されていった。中田医師はこう危惧する。

「もっと重大なのは、AI医療機器の認可が日本では非常に遅れていることです。2021年12月時点で17ほどしかないのです。欧米では100以上認められているのにもかかわらず、です。AIに関していえば、非常に劣勢であることは間違いないでしょう」

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