中年体こそ できなーい!と 駄々をこねよ(イラスト/サヲリブラウン)
中年体こそ できなーい!と 駄々をこねよ(イラスト/サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 携わる業務に様々なものが付帯したり、これまでの流れから断れない仕事が舞い込んだり、仕事というものは、特に「量」に関して思い通りにはいかないものだと思います。

 若い頃は乱暴な気力体力で乗り切ることもできましたが、中年となると、そうもいかない。ウン十年前とは仕事の質が変化しているので、雑な見切り発車で取りかかるわけにもいきません。

 そんな時、私は子どものように駄々をこねます。「いやだー! できないー!」と。ラジオ番組のスタッフや担当編集者はギョッとするでしょうが、もの分かり良く、顔色ひとつ変えずに請け負うと、結果的には自分を壊し、周りにも迷惑を掛けることになると、年を重ねるごとに思うようになったからです。

 誰にでもキャパシティーの限界があり、それを拡張できるのは、ざっくり言えば30代の終わりまでだと個人的には思います。そこから先は、入れ物としての肉体が衰えていくのと比例して、精神力も減退します。それ自体は悪いことではなく、大局的にものごとが見られるようになるなど、体力漲る若かりし頃にはできなかったことができるようにもなります。いまは、そっちを生かすほうが得策です。

 人員削減が尊ばれるご時世もあって、いまの40代が20代だった頃よりも、プレイングマネジャーの役割を担う中間管理職が増えました。加えて、働き方改革のモットーと現場の実情にまだまだ乖離があり、結果、若手の取りこぼし(という言い方は不適切かもしれないけれど)をカバーするために40代が業務過多になったりもする。子育て世代でもありますし、気持ちが削られますよね。

 へこたれない精神の尊重に異論はありません。私もそれでやってきました。と同時に、適宜「できなーい!」を言うのも、先輩や上司の新しい姿だとも思うのです。格好をつけて安請け合いをしないという意味でもあります。

 時代の変化のおかげで、「できなーい!」の先にあるのは信頼の失墜ではなく、「じゃあ、どうしようか?」になってきました。老体ならぬ中年体に鞭を打って働く人々よ、このチャンスを逃してはなりません。家事育児だってそうです。

 誰かが無理をしてやらねばならぬ時は必ずあるのだけれど、それを恒常化させないこと。我々世代の責務はそこにあるのではないでしょうか。自分の健康のためにもね。

(イラスト/サヲリブラウン)
(イラスト/サヲリブラウン)

※AERA 2022年4月25日号

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