企業のSNSといえば、型にはまった宣伝といった印象だが、いまや、社員が自分らしさを前面に出し、商品の魅力を代弁。企業も「社員インフルエンサー」の育成に乗り出している。AERA2022年5月2―9日合併号の記事を紹介する。
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しんとした部屋に、はつらつとした声が響く。
<こんばんは~! 今日は謎に(髪を)巻いています>
<ブラウスを一通り持っている方は、こういうグリーンもかわいいと思います>
ボリューム感たっぷりの華やかな洋服を手にし、流れるように話すのは、大手アパレルメーカー「バロックジャパンリミテッド」の村岡美里さんだ。
アパレルショップでよく聞く接客トークだが、村岡さんの目の前に人はいない。話しかける先は、スマホ画面の向こう側にいるフォロワーたちだ。
<ん? おしり隠れますか? 隠れます!>
<バッグに長財布は入りますか? 入りません!>
インスタグラム上に次々と書き込まれるコメントを読んでは、てきぱき質問に答えていく。常時150人ほどが接続し、総再生回数は8千回超。さながら芸能人のようだが、事務所に所属しているわけではない。同社のビジュアルスタッフとして働く社員の一人だ。
■数十万人のフォロワー
「今年3月までは福岡の店舗にいて、春から東京本社に来ました。今は週に1日だけ接客をして、他の日はスタッフへのSNS指導をしています」
と、村岡さん。
ビジュアルスタッフというのは、同社が2010年頃から導入した「ショップ販売員兼インフルエンサー」の肩書のこと。接客力や意識が高いスタッフをスカウトしたり、オーディションをしたりと選出方法はさまざまで、いずれもフォロワー数が1万~数十万の人気者だ。
フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSで情報発信する企業は増えているが、企業アカウントといえば“中の人”といった裏方のイメージも根強い。だが、バロックジャパンリミテッドの他にも、資生堂やGUなどがスタッフアカウントを開設。かつて渋谷109などでカリスマ販売員が話題になったように、そのフィールドはインターネットへも広がり、「社員インフルエンサー」が活躍し始めている。