そして、1位指名に4球団が競合した2019年秋のドラフト会議でロッテが「当たりクジ」を引いたことも、佐々木にとって「幸せな運命だった」と間違いなく言える。当時の吉井理人投手コーチ(現ピッチングコーディネーター)の指導の下、1年目は1軍に同行して体力作りに専念。「過保護すぎる」との声がプロ野球OBから上がったが、方針はブレなかった。昨年も中10日以上の登板間隔をシーズン終盤まで貫き、11試合登板で63回1/3を投げた。
そして3年目の今年、4月10日のオリックス戦(ZOZOマリン)で28年ぶり史上16人目の完全試合を達成。プロ野球新記録の13者連続三振、日本タイ記録の1試合19奪三振と歴史を塗り替えた。その投球パターンはシンプル。時折、スライダーやカーブを交えたが、105球のうち直球が64球、フォークが36球と2種類で95%以上を占めた。外野に飛んだ打球は2球だけだ。
進化する「未完の怪物」
同月17日の日本ハム戦(ZOZOマリン)でも八回まで走者を一人も出さない完全投球。だが、0-0で迎えた九回のマウンドに上がらず、日米通じて初の「2試合連続完全試合達成」は幻に終わった。
吉井ピッチングコーディネーターは、自身のブログでこうつづっている。
「マリーンズベンチもよく8回で降板させました。(6回で代えてほしかったけど)ついつい目先の勝利や記録にとらわれ、選手に無理をさせてしまうことがあるのですが、良い判断だったと思います。(中略)佐々木は1年間フルに戦ったことのない見習い投手です。(もはや見習いとは言えない実力だが)壊れてからでは、遅いのです」
変化球の精度、スタミナなど強化すべきポイントは多くある。進化し続ける「未完の怪物」。こんな投手は見たことがない。
(ライター・牧忠則)
※AERA 2022年5月16日号一部加筆