「肺がんの薬物療法にとってターニングポイントでした。それ以降は治療戦略を練るうえで、まずバイオマーカーでたんぱく質や遺伝子などの検査をおこない、『標的』の有無を調べるようになりました。標的をもたないがんの場合には、従来通りの細胞障害性抗がん剤を使用し、標的を持つ場合には分子標的薬を使うことが一般的です。これは肺がんだけでなく、多くの固形がんでおこなわれています」

■人のからだが本来もつ力を利用して治す「免疫療法」

 そして現在、もっとも注目されているのは免疫チェックポイント阻害薬だ。18年に本庶佑氏がノーベル医学生理学賞を受賞したことで一躍有名になったが、国内では14年に「ニボルマブ(商品名オプジーボ)」が保険で承認されたのを皮切りに、22年1月現在で6種類が国内で承認されている。

 免疫チェックポイント阻害薬は分子標的薬の一種だが、その働きは独特だ。がんを直接攻撃するのではなく、人のからだが持っている病気とたたかう力(免疫)を利用している。

 免疫とは、からだに侵入してきた病原菌やウイルスを攻撃し撃退するしくみだ。体内に発生したがんには、白血球の中にあるT細胞という免疫細胞が攻撃する。しかしがん細胞はT細胞に「攻撃終了!」という指令を送ることができるため、攻撃にブレーキがかかってしまうのだ。

 免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞からの「攻撃終了」のサインを妨害する薬だ。T細胞による攻撃にブレーキがかからなくなり、がん細胞を排除することができる。このように、免疫の力を利用した治療法を「免疫療法」とも言う。

 画期的な治療法だが、免疫チェックポイント阻害薬はすべてのがんに使えるわけではない。効果が認められ、保険診療で受けられるのは非小細胞肺がんやメラノーマ(悪性黒色腫)など数種類のがんに限定されているうえ、その中でも細かい条件がある。条件がそろえば、単独でも、抗がん剤や分子標的薬と併用しても使うことができる。最近ではほかの分子標的薬と同様に、遺伝子検査やたんぱく質発現検査をおこない、「標的」がある場合に使うこともある。

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免疫チェックポイント阻害薬の副作用は?