放射線と薬物を併用する「化学放射線療法」は、薬の力によって放射線治療の効果が高まることが期待されている。このように手術、放射線、薬物の三つの治療をそれぞれ組み合わせておこなうことが近年増えている。

 三つめの目的は、延命とQOL(生活の質)の向上だ。進行したがんや手術後の再発などの場合、治癒は難しくなる。局所療法ができなくなった場合に頼れるのも薬物療法だ。薬を使わない場合に比べて数カ月から数年の延命が期待できる。がんが一時的にでも縮小すれば、体調の悪化を抑えることも可能だ。

週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

■分子標的薬の登場でがん薬物治療が変わった

 がんの薬はなぜ効くのだろうか。そのメカニズムは薬剤の性質によって違う。現在使われている薬剤は四つの種類にわけられる。

 従来の抗がん剤は「細胞障害性抗がん剤」とも言われる。がん細胞は正常細胞よりも分裂・増殖のスピードが速いので、その分裂を妨害することで増殖を抑える。しかし毛根や皮膚、消化管の上皮など分裂・増殖のスピードが速い正常細胞にもダメージを与えるため、脱毛や嘔吐、下痢、皮疹などの副作用が高確率で起こる。

 ホルモン剤は、乳がんや前立腺がんなどホルモンの影響を受ける一部のがんに使われる。ホルモン分泌やホルモンの活動を薬で阻害することで、がん細胞の増殖を抑える効果がある。

 この二つに加え、2000年前後からがんの薬物療法に新しい潮流が生まれた。分子標的薬の登場だ。がんの増殖にかかわるたんぱく質の遺伝子変異や、がん細胞に栄養を運ぶ血管の新生にかかわるたんぱく質など、特定の分子を「標的」にして攻撃する。正常組織に直接攻撃をしかけることがなく、治療の効率もよい。だが、すべての患者に使えるわけではない。「標的」となる遺伝子の変異(ドライバー遺伝子)やたんぱく質の発現を持つ患者だけに効果が表れるのが大きな特徴だ。

週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

 たとえば肺がんに使われるゲフィチニブ(一般名イレッサ)という薬は、02年から日本で使われるようになった分子標的薬だ。当時はすべての肺がん患者に使われたが、劇的に効果がある人とそうでない人がいた。調べると、がん細胞の「EGFR遺伝子」に変異がある人だけに効果があるとわかった。北里大学病院の佐々木治一郎医師はこう話す。

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それ以降は『標的』の有無を調べるように