■「三つの共有」が大切
また、信頼を構築するためには「三つの共有」が大事だという。作業と過程の共有、気配の共有、気持ちの共有の3点だ。
「作業の現状がわからない」「反応が薄い、いつ何をしているのかわからない」「何を考えているかわからない」といった状態は、すべて不信感につながると五ケ市さんは指摘する。
「例えば(ビジネスチャットの)スラックを使うとき、スタンプはオレンジやピンクなど暖かい色味を使うようにします。新しいメンバーが入ってきた時などは、普段の3倍はリアクションします」(五ケ市さん)
こうして心理的安全性を高める配慮を重ねることで、作業が遅れていることなども報告しやすくなるという。ただし自宅でいつでも仕事ができる環境にいると、オンとオフの切り替えが難しく、思わぬ疲れがたまってしまうので注意が必要だ。
「会社側もリモートで仕事がうまくいくようにいろいろ対策は取ってくれていましたが、そこに頼るだけでは足りない」
と語るのは、スタートアップのマーケティング・PR職に転職直後にフルリモートを体験した30代の男性。「待ちの姿勢はよくない」と考えた彼は、こんな離れわざをやってのけた。
「グーグルカレンダーで社内の全員の動きがわかります。自分が声をかけられている会議じゃなくても、これは出ておいた方がいいなと思ったら、参加させてもらってもいいですか?と声をかけて出席するようにしました」
■小細工で好印象を残す
他にもスラックの雑談チャンネルでツイッターで見つけた面白ネタを投下したり、「この麻婆豆腐が絶品だった」とおいしい店情報を共有したり、何かにつけて発言するようにしたという。こうして積極性を見せることでリモート転職直後でも存在感を発揮することができ、評価も上々だったと自覚している。
米国のスタートアップに今年転職した40代の男性は、フルリモートにまつわるこんな努力を語ってくれた。
「転職直後は、テーマによっては一言もしゃべらない会議もあります。小細工ですけど、映るところだけでも“ちゃんとしてる”ふうに見えるように心がけていました」
WEB会議の時はジャケットを羽織り、髪の毛はしっかりセット、顔にライトが当たるようにして画面映りを明るくした。
こうして初期に好印象を残せたおかげかどうか、実務で実力を示す機会も増えてスムーズにチームに溶け込んでいくことができたという。男性がいう。
「ウディ・アレンの名言で、“80 percent of success is showing up.”という言葉があります。成功するかしないかはそこに行くかどうかで決まる、という意味。僕はこの言葉が好きなんですが、現場に行けないリモートでどうやってshow upするか、考えるようになりました」
(編集部・高橋有紀)
※AERA 2022年5月16日号より抜粋