「ミュージカル界の帝王」、山口祐一郎さん。作家・林真理子さんとは長年のお付き合いということで、対談が始まるとすぐに、会話は大盛り上がりでした。
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林:ご無沙汰しております。
山口:林さんとは、青春時代に楽しいひとときを過ごさせていただきました。
林:はい、だから私もお会いするのを楽しみにしていました。
今回、山口祐一郎さんがホストになって、縁のあるゲストの方々をお招きして、劇場に来たお客さんにトークと歌で楽しんでいただくイベント(「My Story,My Song ~and YOU~」5月19~22日 シアタークリエ)をなさるんですね。
山口:実は2年前に帝国劇場で、今まで初めての試みとしてトークショー(「My Story ─素敵な仲間たち─」)をおこなったんですよ。当時は今よりももっとミュージカルやコンサートなどに対する制限が厳しくって、集まって何かするものはすべて延期、中止という風潮だったんですよね。それでも「こういうつらいときだからこそ劇場に来たい」という方がたくさんいらっしゃるわけじゃないですか。
林:当時はいろんな舞台が中止になって、とても残念でしたよ。
山口:そうですよね。それで、「(コロナの状況で)稽古ができないのなら、歌なしでトークだけのショーにしよう」と考えて企画されたのが、帝劇の舞台機構を使って、奥にひそんでいる劇場そのものの魅力を前面に出したトークショーだったんです。裏方さん、大道具さん、照明さん、音響さんたちの力を総動員して、せり(舞台の床の一部が上下する装置)とか盆(床が回転する装置)も全部使って。
林:オーケストラとか歌は、そのときどうしたんですか?
山口:オーケストラもないし、歌もありません。そういうのができない状態でしたからね。
林:すごいですね。お客さん、たくさんいらしたんですか。
山口:満杯になりました。当時、コロナ禍ですでに医療現場が疲弊しきっていた時期だったのですが、そのトークショーのあと、僕、医療関係の方からお手紙をいただいたんですよ。「コロナになって1年、泣いたり笑ったりすることもありませんでしたが、劇場に来て山口さんの話を聞いていたら、泣いている自分に気づいて。そんな自分に、途中から笑っちゃいました」というんです。それを読んで、ああそうか、緊張したギリギリの状態で医療に励んでおられる方が、劇場に来てふと我に返れる瞬間があったんだな、と思ったんです。それから、「よし、チャンスがあったら何でもやろう」と思いました。