一方、全力疾走がアダになって、投手生命に影響するアクシデントに見舞われたのが、大洋のエース・遠藤一彦だ。
87年10月3日の巨人戦、14勝を挙げ、3年ぶり3度目の最多勝を目前にしていた遠藤は、この日も巨人打線を4回まで1安打無失点に抑えた。
そんな矢先、1対0とリードした5回に思わぬアクシデントが起きる。この回、先頭の遠藤は二ゴロエラーで出塁。次打者・高木豊も左翼線に安打を放った。投手なら二塁で止まってもおかしくない場面だったが、足に自信のある遠藤は、レフト・吉村禎章が打球処理にもたつくのを見ると、一気に三塁を狙った。
ところが、二塁を回った直後、右足に「後ろから蹴飛ばされたような」異状を感じる。それでも、左足だけでケンケンしながら、倒れ込むようにして三塁に到達したが、激痛のあまり、起き上がることができない。
そのまま担架で搬送され、病院で検査を受けた結果、右足アキレス腱不全断裂で全治3カ月と診断された。最多勝を逃したばかりでなく、投手生命も縮めてしまった。
俊足であっても、走塁中に何があるかわからないことを考えると、やはり投手は本職第一を旨とすべきかもしれない。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。