投手ながら50メートル6秒1の俊足だったことから、楽天・星野仙一監督からポストシーズン用の“秘密兵器”と期待されたのが、福山博之だ。
13年10月12日のシーズン最終戦のオリックス戦、すでにリーグ優勝を決めていた楽天は、7回1死一塁で4番・ジョーンズが四球で出塁すると、「代走・福山」が告げられた。
福山は前日の練習の30メートル走で、盗塁王を3度獲得した松井稼頭央に勝つほどの俊足ぶりを披露。5日後にCSを控えていた星野監督が、試合終盤に野手を使いはたしたときの代走要員として、福山を実戦でテストしてみたくなるのも、もっともな話だった。
しかし、1死一、二塁で、次打者・岩崎達郎は三ゴロ併殺に倒れ、自慢の快足は披露できずじまい。
「明日からベースランニングさせないと」となおも意欲を見せた星野監督だったが、残念ながら“投走二刀流”は、CS、日本シリーズともに、本職の投手も含めて出番なしで終わっている。
野手顔負けの走塁でチームの勝利に貢献したのが、楽天・石橋良太だ。
19年6月20日の阪神戦、2対2の7回、石橋は1死一塁で送りバントを試みたが、投ゴロで一塁走者・太田光が二封されてしまう。一塁に残った石橋は続投予定のため、代走を送ることができない。
その後、石橋は茂木栄五郎の安打で二進し、2死一、二塁で島内宏明が中前安打を放つ。投手の走者が二塁から本塁を狙うのは、一か八かの賭けだったが、笘篠誠治三塁コーチは、迷うことなくゴーサインを出した。
三塁を回った石橋は、微妙なタイミングながら、捕手・梅野隆太郎のタッチを間一髪かわすと、左足から果敢にスライディングして、見事ホームイン。値千金の1点をもたらした。
実は、石橋は明徳義塾高時代に二塁手として甲子園に出場し、拓大でも投手兼内野手の二刀流だったので、走塁もお手のものだったのだ。
「試合でスライディングしたのは、大学以来。10年ぶりです」という石橋は、8回途中から3投手のリリーフを仰ぎ、自らの足で稼いだ得点で勝ち投手になった。