しかし、しのぶは鬼への復讐を心に秘めながら、姉の遺言を契機に、鬼との共存方法も模索していた。

<でもそれが姉の想いだったなら私が継がなければ 哀れな鬼を斬らなくて済む方法があるなら 考え続けなければ>(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)

 鬼への怒り、鬼への同情。「殺す」ことは解決になるのか。珠世としのぶが鬼殺隊にもたらした、「毒と薬」という対極の方法は、かわいそうな鬼・残虐な鬼に対する葛藤ともあいまって、複雑な思いをかき立てていく。

■なぜ開発者が女性2人だったのか

鬼滅の刃』の物語において、「毒と薬」の開発者が、しのぶと珠世という、2人の女性の手に委ねられたのはなぜか。鬼を殺すための毒を作る人間・しのぶ。鬼を人間に戻すための薬を作る鬼・珠世。この2人の女性は一見すると対照的な存在であるが、共通点も多い。

 まず、彼女たちにはそれぞれに「宿敵とする鬼」が存在した。しのぶは実姉を殺した上弦の弍・童磨の滅殺を願い、珠世は自分に子殺し・夫殺しをさせた鬼舞辻無惨の消滅をもくろんでいた。

 さらに彼女たちは、単なる「開発者」ではなかった。彼女たちはもっとも過酷な戦闘の最前線に身を置いた。しのぶと珠世の強い信念は、“捨て身の方法”を彼女たちに選択させる。

<鬼を一体倒せば何十人 倒すのが上弦だったら何百人もの人を助けられる できるできないじゃない やらなきゃならないことがある>(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

<そうだ自暴自棄になって大勢殺した その罪を償う為にも 私はお前とここで死ぬ!!>(珠世/16巻・第138話「急転」)

 無惨も童磨も彼女たちの非力さを侮るが、強い2体の鬼に決定打を打ち込んだのは、この美しく“か弱い”2人の女性だった。

■「薬と毒」が戦いに用いられる意味

 鬼の珠世と、鬼殺隊の胡蝶しのぶが開発した「毒と薬」は、最終決戦において大きな役割を果たした。「人間を喰ったことがない鬼」を人間に戻し、彼らに日常を取り戻させた。鬼の始祖・鬼舞辻無惨と、実力者の童磨との戦いでは、彼女たちが作った毒によって、鬼殺隊側を勝利へと導く契機が生まれる。

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毒と薬では「救えない」もの