だが同時に、「薬と毒」にいかなる劇的な科学的効果があったとしても、「人喰い」がもたらした悲劇を解決しきれないという“揺らぎ”も浮き彫りにする。

 罪は何をもって償いへと向かうのか。殺害された者の救済は何によって達成されるのか。『鬼滅の刃』が単純な勧善懲悪の物語ではなく、葛藤する人間の心の動きそのものを描き出した名作であるといわれるゆえんがここにある。

 これから続編が期待されるアニメ版『鬼滅の刃』において、何に対して彼女たちの「毒と薬」が使われるのか、注目して見てほしい。それはこの稀有な物語の楽しむひとつの鍵になるだろう。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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