編集長:意思決定支援外来で、実際にどのような相談があるのか、具体例を教えていただけますでしょうか?
鳶巣:80歳の女性(一人暮らし)のケースですが、2センチ大の乳がんが見つかりました。医療者や周囲の方からは、「早期で見つかって、よかったね」と言われ、手術をすすめられましたが、ご本人は悲観的な様子で、「私はもう80歳だから、(手術はしなくて)いいよ」と繰り返します。
話をうかがうとこの患者さんは若いときからいろいろな病気を経験され、入院歴もあることがわかりました。そのときも大変な思いをされたのでしょう。少しばかり投げやりになっておられ、気持ちが前に進まないようでした。このような場合はご本人の心の状況によりそう姿勢が大事になります。
■手術を拒んでいた患者が、決意したわけ
鳶巣:私は彼女のお話にじっくりと耳を傾けました。やがて、患者さんからは、「長生きできるならクラシックコンサートに行きたい、夜の晩酌を楽しみたい」などの話が聞かれるようになりました。
気持ちがほぐれてきたと感じたところで私は、「この治療を誤解していませんか?」と話を切り出しました。手術の内容や術後どのような経過をたどるか、入院期間などを説明し、「退院したらほぼ元通りの生活ができること」、つまり、しっかりと治療を受ければ、クラシックコンサートに行くなど、「やりたかったことができるのではないですか?」と少し背中を押してみたのです。この患者さんは結果的に、手術を受けるという選択をされました。
これは比較的、軽いケースですが、重いケースの場合も先ほどのステップを踏み、患者さんが現状を受け入れられる状況になるのを確認した上で、ご本人が選び取れるように話を進めていきます。
■多くの患者に向き合ってきた医師が、一番伝えたいこと
編集長:意思決定支援外来のような取り組みが、ほかの病院にも広がっているといいと思いますが、どうでしょうか?
鳶巣:がん診療連携拠点病院では、意思決定をサポートする窓口があることや、それを患者さんに明示することが認定の要件になっています。しかし、診療報酬がつかないこともあり、都立駒込病院のように踏み込んで実施している病院は、ほかにはほぼないと思われます。ですから、ほかの病院も「うちでもやってみよう」と各地で活動を始めていただけたら、うれしいですね。
編集長:そうなってくるといいですね。ありがとうございます。最後に鳶巣先生から視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。