「マクロ経済スライドが終わるまでの間に、スライド調整率が物価上昇率を上回ると、名目下限措置が働いて年金額が『据え置き』になってしまうんです。これは、それが起きる結果です」(中嶋上席研究員)
さらに驚くのは、基礎年金は同じ「6.57万円」で網掛けがずっと続いていることだ。何と基礎年金は24年度から54年度まで30年以上にもわたって同じ理由で据え置かれてしまうのだ。マクロ経済スライドが58年度まで続くためだ。
この結果、現役との差は広がるばかりになる。1年ごとは微々たるものでも、それが数十年続くと「ちりも積もれば……」で大幅に差が膨らむ。これが「マクロ経済スライド」の本当の威力である。「目減り」が続くと、「世の中の水準」に比べて年金受給者は相対的に「貧乏」になってしまうのだ。
しかし、これでもまだ救われているといえるかもしれない。「名目下限措置」に守られて年金額が「据え置き」にとどめられているからだ。スライド調整率の数字を見てほしい。最初のころは比較的低い数字が並んでいるが、その後はどんどん高くなっていく。26年度には「1%」を超え、最高は「1.7%」台まで上がる。
「現在の数字が低いのは、60歳代前半の人たちが定年を過ぎても働き続けているためです。この動きが一巡すると少子高齢化が進む元の姿に戻るため、スライド調整率が高くなっていきます」(同)
受給世代が恐れるべきは、デフレ経済で「マクロ経済スライド」による調整が予定より遅れているため、「例外はやめるべきだ」とする意見が経済界などを中心に強まっていることだ。すなわち、「名目下限措置」などを撤廃し、毎年どんな状況でもスライド調整率を差し引くとするものだ。いわゆる、マクロ経済スライドの「フル適用」といわれるものである。
ちなみに「フル適用」が行われた場合に年金額がどうなるのかも中嶋上席研究員にシミュレーションしてもらった。