週刊朝日 2022年6月17日号より
週刊朝日 2022年6月17日号より

 冒頭で触れたように、「マクロ経済スライド」は年金を「目減り」させる仕組みだ。具体的には賃金や物価の伸びほどには年金額を上げないことで実質価値を下げる。賃金や物価が伸びた分から、長寿化の進展や現役の数から計算される一定率(「スライド調整率」という)を差し引くのが典型例だ。

 ニッセイ基礎研の中嶋上席研究員が言う。

「保険料の引き上げなど、これまで現役に対して行われてきた負担増は受給者には何の関係もありませんでした。でも『マクロ経済スライド』は違います。一人の例外もなく受給者全員に負担を求めるものです。その意味で私は『勝ち逃げを許さない制度』と言っています」

 もっとも、ここにも例外措置が設けられている。スライド調整率を差し引くとマイナスになってしまう場合は「据え置き」にとどめる(マイナス改定はしないという意味で「名目下限措置」と呼ばれている)。また、第1段階が最初からマイナスの場合は、そこからさらに差し引くことはしない。しかし、引き切れなかった部分はこれまでは消えていたが、18年度からは翌年以降に持ち越される「キャリーオーバー制」が導入された。これまた抑制策の強化である。

 いずれにせよ第1段階でプラスになった場合に自動的にスライド調整率を差し引いていく、まさに機械的に年金額を低くするのが「マクロ経済スライド」なのだ。そして、それは年金財政が健全になるまで続く。

 さて、いよいよ「本当の年金額」を表すシミュレーションである。

 シミュレーションには経済前提が欠かせない。使ったのは国が5年に1回、公的年金制度の「健康診断」として100年先までを見通して行う「財政検証」の数字だ。

 財政検証ではさまざまなケースを想定して将来の年金財政を試算し、制度の健全性を見る。直近の19年検証では「I」から「VI」まで6通りのケースが想定された。「I~III」が経済が順調に進む「経済成長と労働参加が進むケース」で、「IV・V」がまずまずの「(両者が)一定程度進むケース」、そして「VI」が「(二つとも)進まないケース」だ。

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