従って、今回明らかにする「本当の年金額」は実際にもらえる金額に近いと思っていただいていい。それは後でじっくりご覧いただくとして、まずは全体の理解に欠かせない年金額が決まるルールとその意味をおさらいしておこう。

 公的年金のメリットの一つに、経済変動が起きても実質価値が変わらないことがある。制度の発達に合わせて、長期間かけて作られてきた仕組みだ。年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏が言う。

「昭和48(1973)年に初めて物価に連動する仕組みが導入されました。最初は消費者物価が5%動いた場合に改定されるものでしたが、その後、数段階の進化を経て、平成元(89)年に完全自動物価スライド制が導入されました」

 毎年の物価の動きを年金額に自動的に反映させるもので、これで「インフレに負けない年金」の仕組みができあがった。

「年金額についてはその後、2004年に物価に加えて賃金も基準にする現在の改定ルールが導入され、近年、賃金に連動させる仕組みが強まっています」(三宅氏)

 一方、並行して高齢化がどんどん進んだため、給付抑制の必要性も強まり、同じく04年に「マクロ経済スライド」が導入された。完全自動物価スライド制の実施から15年で、実質価値が変わらなかった公的年金のメリットに「風穴」が開いたのだ。

 もっともデフレが続いたことで「マクロ経済スライド」の発動は遅れ、初めて適用されたのは15年度だった。以来、毎年の年金額は2段階のスクリーニングで改定されている。

 第1段階は賃金や物価の変動度合いで判断される「本来の改定」だ。両者の上がり度合いや下がり度合いの関係で年金額が決まる。受給者の場合は基本的に、物価が上がれば年金も上がり、物価が下がれば年金も下がる仕組み。ただし、物価が賃金を上回る場合に一部、例外規定が設けられていたが、21年度から低い賃金に合わせるルールに変わった。

 これもまた賃金連動に基づいて給付抑制を狙ったものだが、抑制の本命は第2段階で行われる「マクロ経済スライド」を使った措置にこそある。

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