そして、カンヌ映画祭常連の河瀨直美監督。今年は「東京オリンピック2022」がクラッシック部門で上映された。クラッシック部門は旧作映画の名作修復版を上映する部門で、新作が上映されたのは異例だ。未完成作なので、ここでは2部構成のうち、選手に焦点を当てる「SIDE:A」のみの上映となった。
小規模な劇場で1度きりとあってチケット入手も困難で、数百人の河瀨監督のコアファンのみが集う場という雰囲気だった。上映後、「メダルを取れなかった人も含め誰もが全力を尽くした人類の証言として後世に残す映画」にしたかったと」と観客に向けて語った河瀨監督。「SIDE:B」の編集中にカンヌ入りし、上映後にトンボ帰りという強行軍だった。
同作は鑑賞したプレス関係者の数も限られ、現地での評価は判断できなかった。(「SIDE:A」公開中、「SIDE:B」は6月24日から公開)
カンヌ映画祭には公式部門以外に独立系の部門もあり、そこで注目を集めた日本人監督の作品もあった。独立系の一つACID(Association of Independent Cinema & Distribution<独立系映画配給協会>)部門で上映された山崎樹一郎監督の「やまぶき」だ。山崎監督は岡山県真庭市で農業を営みながら、地元で映画制作をしている。本作は長編3作目、監督が愛してやまぬ花、ヤマブキに思いを託した1本だ。「ヤマブキの花がとても好きで、これを題材にした映画を作りたいと思っていたんです。桜と同時期に咲く花なのに、日本を象徴するよう花として愛される桜とは違い、あまり知られずひっそりと咲いている」(山崎監督)。そこから、社会の片隅でヤマブキのように生きる人の存在と社会の歪みに目を向ける群像劇が誕生した。
これまで酪農青年や、百姓一揆などをテーマに、地元に密着した“地産地生”映画を10年以上に渡って作り続けてきた。岡山の自然の繊細な映像は外国人をも魅了し、ロッテルダム映画祭でもコンペ入りした。前述した早川監督の「プラン75」と同じ仏との共同制作。山崎監督は「こういう映画なんで、毎回資金集めは大変です。お願いして、お願いして、お願いしてという。今回カンヌに来られたので報われた部分はあると思いますが。フランスや韓国のように、もっと支援あって、もう少し作りやすくなればいいなと常々思っています」と話した。(2022秋全国順次公開)
コロナ時は姿を消したハリウッド映画の上映も復活、トム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」も話題になるなど華やかさが戻った今年のカンヌ映画祭で、キラリとした存在感を放った日本勢。新しい才能がこれから世界へさらに羽ばたけるかどうか、日本映画界の今後からも目が離せない。
(高野裕子)
*週刊朝日オリジナル記事