「プラン75」の申請窓口で働く若者ヒロムの視点も平行して描かれ、高齢化や人間の尊厳という大きなテーマを社会全体の課題として捉え、幅広い観客が共感できる内容になっている。
ヒロムを演じた磯村勇斗は、「常々日本の高齢化社会について疑問を感じ、どう解決しているのだろうかという気持ちがあった。若い世代に責任やしわ寄せがふりそそいでいく。若い世代一生懸命働いてもお金が入ってこない。そんなヒロム世代の気持ちを感じつつ演じようと思いました」と現地で語った。
同作は冷静な視点と心温まるタッチが国境を越えて多くの人の心に響き、長編デビュー作に授与されるカメラドール賞の特別賞を獲得した。(6月17日から公開)
是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」はコンペ部門で6度目のエントリー。4年前に「万引き家族」がパルムドールを受賞、世界的な評価と人気が急上昇した是枝監督の最新作は、舞台を韓国に設定し、親が育てられない新生児を、子どもを望むカップルらに養子縁組してあっせんする「ベイビーボックス」を題材にした監督オリジナル脚本作品だ。
記者会見で是枝監督は、「普通の家族から切り離されて生きてきた人たちが、ほんの短い間同じ車に乗る。小さな悪人が集まり一度だけ良い事をする、という事を紡いでみたいなと思って作った作品です。それによって私たちの考えていた家族の捉え方を考え直すきかっけになればと思いました」と話した。
プレス上映終了後には会場から拍手が沸き起こり、監督の底力を示した。「テーマが深刻であればあるほど、ディテールの描写にはある程度の軽やかさや、人間の可笑しみを表現したいと思いました。ソン・ガンホさんという役者さんはぴったりだなと思いました」と是枝監督。本作は「パラサイト」で世界的な知名度を上げたソン・ガンホに主演男優賞をもたらし、エキュメニカル審査員賞を獲得した。(6月24日から公開)