大会社の社長として会社改革にすぐ手をつけた女性は、まず誰の目にもわかる人事から手をつけた。わかりやすかったが、大きな反発を受け、一年後に改革半ばで辞めざるを得なかった。

 それを知っていたので、私は慎重に、一年近くはその組織をじっくり観察することにした。なにしろ今まで全く知らなかった世界だったのだから。そして曽野さんが組織に入ってから書かれた日誌や本を熟読した。女性にしかわからぬ経験もあるはずだから……。

 そして一年後、秘かに考え、練っていた人事の刷新を断行した。単なるお飾り的存在と私を見ていた人々は驚いたろう。一年間じっくり観察していたので、反発があっても驚かなかったし、落ち着いて対処できたと思う。結果をはやってすぐに手をつけていたら、まんまと足をすくわれ失敗していたと思う。

 林さんの場合、すぐにも手をつけるべきことが山積しているだろうが、ご自分のペースで、決してあせらずに、日大芸術学部という誇り高い学部出身の愛校心を発揮していただきたい。

 陰ながら期待している。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年6月24日号

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