人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、林真理子・日本大学新理事長について。
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日本大学の新しい理事長は、林真理子さんに決まった。前代未聞のスキャンダルがあった大学を立て直すためである。
林さんは、作家としても脂ののっている時なので、さぞ考え悩まれたろう。その上での決断は潔い。ここで今までと全く違う立場に立つことは、作家としても大きな飛躍をもたらすかもしれない。
失敗は許されない。だからといって一度自分で決断したことには責任を持たねばならない。
林さんなら、あのおおらかさで乗り切れるだろうが、今まで男性社会で成り立ってきた組織、最初はとまどうこともあるだろう。
というのも、立場は違うが、私も六十九歳から経産省の特殊法人だった日本自転車振興会(現・JKA)の会長を三期六年務めた経験があるからだ。
それ以前に、日本財団の会長を曽野綾子さんが九年半務めていた。私が日本自転車振興会の会長になる前にも、ある大会社の社長が女性に代わった。いずれの場合も共通点があった。スキャンダルの後だったのだ。
曽野さんや私が就任する前も、それ自体はさほど表沙汰にならないですんだが、やはり不祥事があった。
スキャンダルの後は女性にという暗黙の了解もあったように思う。女性は組織の弊習に手を染めていないので清潔感があるのだろう。イメージが先行して、スキャンダルの後という最も大切な場面を担うことになる。かつてはそうした場面以外に、女性の登用は少なかったとも言えるのだ。
林さんの場合は、誰もが知る理事長の大スキャンダルの後の就任となった。長い間に根を張った病にメスを入れるのは易しいことではない。
しかしその困難さを逆手に取り、大学改革を実行する手腕に期待したい。
ただ一つ私からお願いしたいのは“急いては事を仕損ずる”ということだ。