西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、今シーズンのプロ野球で多くの記録が生まれている要因を分析する。
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DeNAの今永昇太が6月7日の日本ハム戦で史上85人目(通算96度目)のノーヒットノーランを達成した。
走者は四球の1人のみの準完全投球。球団では52年ぶり4人目の快挙となったが、何より驚きなのが、今季は4月10日に完全試合を成し遂げたロッテの佐々木朗希、5月11日のソフトバンクの東浜巨に続き早くも3人目の達成。そのほか、九回まで完全投球だった中日・大野雄大、完全試合の次の登板でも8回完全だった佐々木朗など、偉業まであと少しという試合が本当にたくさん出てきている。
今年は何でこんなに多いの?と言われるが、その明確な理由がわかったら苦労しない。ただ、いくつかの要因は考えることができる。
まず「近年の野球の変化」が挙げられる。かつて昭和から平成にかけてのころは、よく「スモールベースボール」と言われたもので、下位の選手や2番打者は、粘って四球を得る打者が多かった。だが、今はどうだろう。打者はパワーがつき、しっかりと振ることができる打者がそろっている。さらに、考え方だ。佐々木朗希に対して、バットを短く持つ打者はいても、カットすればいいという意識の打者はいないと思う。佐々木朗希は「ボール球をうまく使いながら」ではなく「ストライクゾーンで勝負」という意識でどんどんストライクをとる。その意識は球界のパワーピッチャーはみんな持つようになった。打者もそれに対して「早いカウントから打ちにいかないと追い込まれたらやられる」と考える。だから「粘って四球」という考えでは後手に回る。時代とともに野球は変化する。各打者も球威に負けまいと強いスイングをするようになっている。一部の方からは「無策」や「淡泊」に映るかもしれないが、勝つためには1安打しても意味がない。投打における野球への意識の変化もあるだろう。