スタン・ゲッツの「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」(TOKYO FM提供)
スタン・ゲッツの「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」(TOKYO FM提供)

 ラストのスタン・ゲッツの演奏で、春樹さんが和田誠さんの訳詞を朗読した。タイトルは「誰もぼくから奪えない」。春樹さんの声に和田誠夫人の平野レミさんがじっと耳を傾けていた。

「素晴らしい画家であり、素敵な人柄だった和田誠さんのご冥福を祈りたいと思います。和田さん、長い間どうもありがとう」

 仲の良かった友人が亡くなり、その奥さんへの音楽のプレゼントがそのまま番組になった。

 春樹さんは和田さんを偲(しの)びながらレコードを選び、奥さんに捧げている。そんな素敵なひとときをリスナーと一緒に味わえるなんて。

 収録後のアフタートークで、平野レミさんが「いつだったかしら。和田さんが『ただいま!』ってニコニコ帰ってきたと思ったら、『今日は村上春樹さんと地下鉄に乗って帰ってきたんだ。それがね、誰も僕たちに気づかなかったんだよ』なんて言って」というエピソードを語り、およそ30人の観客を前に、しみじみと楽しく、思い出話は尽きることはなかった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2022年6月24日号

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