延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。村上RADIOの公開収録について。

【写真】和田誠さんのレコード・コレクションから選りすぐった1枚がこちら

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 トートバッグにオンエアするレコードを入れて村上春樹さんはスタジオにやってくる。村上RADIOの収録は月に一度。いつも軽快な足取りで、神宮外苑でのジョギングや、ジムで泳いだ後、シャワーで軽く汗を流してからのことも。

 国内外で手に入れたレコードは(ジャズバー、ピーターキャット時代も含め)、何十年前のものもあり、スクラッチがレコード盤についていることもあって、再生するとパチパチとノイズがするが、そんな時も、「こんな古傷もまた人生ですね」と呟(つぶや)いてマイクに向かう。

 早稲田大学国際文学館(通称村上春樹ライブラリー)を創設する時、このライブラリーにもラジオスタジオがあったらいいねと春樹さんと盛り上がった。

 村上RADIOのコンセプトのもとになったのが、ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』。ターンテーブルを前に、ネクタイを緩めてタバコを手にしたDJがたった一人スタジオに腰かけている。壁掛け時計の針は4時10分を指している(おそらく明け方なのだろう)。そういうヴィジュアルイメージを建築家の隈研吾さんが具現化して、一人喋りのスタジオができあがった。

 コロナが落ち着きを見せはじめた4月のある水曜、この村上ライブラリースタジオのこけら落としとして番組初の公開収録が行われた。タイトルは「村上RADIO~和田誠レコード・コレクションより @The Haruki Murakami Library~」

 3年前の2019年10月に亡くなったイラストレーター和田さんと春樹さんは『村上ソングズ』や『ポートレイト・イン・ジャズ』の共著がある。その和田さんが遺(のこ)した数千枚のレコード・コレクションから春樹さん自身が選んだ365枚が和田家から村上ライブラリーに寄贈されたのだが、さらにそれを選(え)りすぐっての番組では、「サウンド・オブ・ミュージック」や「王様と私」などのミュージカルから坂本九や浜口庫之助のレアなボーカルものまで、青春時代の和田さんがこよなく愛した音楽世界が再現された。

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