ありがたいことに最近は若い世代のリスナーが増えています。シュガー・ベイブの頃には中学生のリスナーも、年の離れたリスナーもいませんでした。僕の前後5歳ぐらいの、本当に限られた世代だけが聴く音楽でした。それが少しずつ広がって、まさか69歳で新譜を出せるなんて夢にも思っていなかった。
■ずっともがき続ける
基本的に僕はずっと自分の同世代に向けて発信し続けてきました。でも続けていると、最近は癒やされるとか、元気がでるとか、そういう声が目に見えて増えた。昔はそんな意識はなかったけれど、いつしか、自分にできることは音楽を聴いてくれるリスナー、とりわけ同世代の人が、現実の困難から少し離れられたり、「今日もがんばろう」と励まされたりする一助になればと考えるようになりました。
僕がやっているようなポピュラーミュージックは大衆に奉仕して、人の気持ちに寄り添うことと、「人間の生への肯定」が使命だと思っています。都市でも、地方でも、日本のどこかで真面目に働いている人のために演奏して歌う。それは昔から変わっていません。
6月からは3年ぶりのコンサートツアーが始まります。いつまでコンサートやアルバム制作を続けられるのか。それは分かりません。ただ、ずっと昔に作られたようにも、ついさっきできたばかりのようにも聴こえる。見上げる東京の空や、窓越しに見える景色、降りしきる雨や、頬をなでる風が音の向こうに見える。そんな音楽が理想なので、体力と意欲があるうちは、イデアに近づこうともがき続けるんじゃないでしょうか。(ライター・奥田高大)
※AERA 2022年6月20日号