そこから半年間やり続け、半年たって、再び、放送作家さんの前田昌平さんに言いました。「半年たちました」と。すると前田さんは「わかった。土曜日にニッポン放送の前に来て」と詳しい時間を言われました。有言実行。約束を守ってくれたのです。

 土曜日、ニッポン放送に行き、本当にその日から放送作家としての修業がスタートしました。

 すべてはあそこから始まりました。

 今振り返ると、すごいことだなと思います。19歳の小僧に才能があるかどうかわからないのに、そんな小僧に真剣に向き合い有言実行してくれた。本当にチャンスをくれた。咲くかどうかも分からない夢の種を蒔いてくれた。

 この世界にいる人は誰かに夢の種を撒いてもらったからこそ、そこに立っていられる。

 夢の種を撒く側に立つと、それは責任がいる。パワーがいる。だからそこから逃げてしまう人も多い。

 前田さんの下で修業を始めたころ、前田さんはあまりアドバイスをしてくれませんでした。

 ですが、一度、前田さんに提出するショートストーリーで人が死んだ話を書いた時に、「人を簡単に殺すなよ」と言ってくれました。その言葉が20歳の僕に染みました。

 ここ最近、僕が書くドラマや物語では人が死ぬことが多い。だけど、そのストーリーを選んだ時点で僕はあの時の前田さんの言葉を思い出すんです。「人を簡単に殺すなよ」と。

 アドバイスは少なかったけど、太い背骨を作ってくれた。

 前田さんには、もう20年以上お会いしてなかったですが。そんな前田さんがご病気で天国に旅立たれたと、今日、電話がありました。

 前田昌平さんは僕の人生でただ唯一の師匠でした。

 あの時、僕の夢の種を撒いていただき、本当に本当に本当にありがとうございました。

 僕もこれから、逃げずに、人の夢の種を撒いて生きます。

 鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。漫画原作も多数で、ラブホラー漫画「お化けと風鈴」は、毎週金曜更新で自身のインスタグラムで公開、またLINE漫画でも連載中。「インフル怨サー。 ~顔を焼かれた私が復讐を誓った日~」は各種主要電子書店にて販売中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)、長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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