自らてんかんを公表し、プロのアスリート人生を全うした親方は当事者たちには心強い存在だ。だからこそ、支援する側に立とうとしている今、親方はてんかんを自分なりに学び、てんかんの息子に寄り添ってきた親にも当時の話を聞くようになった。

 子どものころ、風呂に入っていると母がちょくちょく声をかけにきたが、それはどの家庭にもある日常ではなく、発作を起こしていないか心配して来ていたということ。高いところやジェットコースターがいまだに苦手なのも理由があった。

「脳を興奮させるとてんかんによくないからと、僕が小さなころに、母が高所やジェットコースターはだめだと言い続けていたのだと聞きました。それが、自分の頭の中に残っていたんですね」(井筒親方)

 てんかんと向き合うことで、親の支えをより深く知るきっかけにもなった。

 井筒親方は、

「自分は症状がかなり軽い方です。もっと重い方々がいることを考えると、自分が患者さんたちの先頭に立つというのはちょっと違うと思います」と正直に打ち明けつつ、こう思いを語る。

「人の助けが必要な病気だと思います。一人でも多くの人にてんかんを知ってもらって、寄り添っていただける世の中になることを願っています。偏見が怖いからてんかんを隠すのではなく、てんかんですよって普通に話せる社会。てんかんを明かすのに、勇気をふり絞る必要のない社会になってほしい。情報を発信する機会やイベントなどがあれば、積極的に協力していきたいと思っています」

 国内に約100万人いるとされているてんかん患者。周囲に患者がいないと感じるのは、「言えない」だけなのかもしれない。親方は謙虚だが、その思いに勇気づけられる患者や家族はたくさんいるだろう。(AERA dot.編集部・國府田英之)

◆てんかん
人間の細胞には「電気的流れ」があるが、大脳でその電気的流れに突然異常が生じることで「てんかん発作」を起こす。日本に患者は約100万人いると推定されており、子どもから高齢者まで誰もがかかる可能性のある病気である。脳のどの部分に異常が生じるかで人により発作の症状はさまざまで、突然意識を失って倒れけいれんを起こしたり、意識がある状態で身体の一部がけいれんしたりするが、大半は数十秒から数分の一過性のもので自然に収まる。患者の70%は抗てんかん薬の服用で発作は止まる。てんかんの特徴や対処の仕方は日本てんかん協会のホームページに掲載されている。(https://www.jea-net.jp/)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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