症状は人によってさまざまだが、

「発作中は意識を失っていることが大半のため、自分に何が起きたのかが分かりません。結果、自分の病気がどのようなものかをよく分かっていない患者さんがいます」(田所さん)

 患者は周囲にいた人に聞くなどする以外、自分の身に何が起きたかを知るすべがないのだ。

 井筒親方もこう振り返る。

「毎回、ある瞬間に記憶が消えてしまい、気づいたら病院のベッドにいました。なので、自分自身に起きたことなのに、どうなったのかが本当に分からないんです。発作を起こしている人を見たこともないので、こういう感じなのかなという想像しかできません」

「隠すな」という父の教えもあり、周囲にはてんかんを公にした。その後、小3と中2のときに発作を起こした。高校3年で角界入りしたときには、部屋の兄弟子に、てんかんの持病があることと、親から聞いていた症状をそのまま伝えた。

「白目をむいて口から泡を吹いてけいれんしちゃうんです」(親方)

「大丈夫なのか、それ?」(兄弟子)

 最後の発作は、すでに十両入りしていた21歳の時。

 昼寝をして、夕方になり出かけようと浴衣を着て……目が覚めたら病院のベッドにいた。

 そばにいた兄弟子はパニックになった。舌をかみ切らないように慌てて口に手を突っ込み、親方の歯が爪を貫通したという。

 ここでも重要な点を、てんかん協会の田所さんの話をもとに補足する。大きな発作を起こすと手足が激しくけいれんするほかに、▽白目をむく▽顔面が激しく引きつる▽歯を食いしばって呼吸が乱れ、よだれや泡状の唾を吐きだす、などの症状が出る。

 かつては、兄弟子が取った対処のように「舌をかみ切らないために」口にタオルなどを詰めるのが良いとされていたが、今はNGである。歯を食いしばっても舌をかみ切ることはなく、逆に口に何かを入れようとして歯を折ったりけがをさせてしまうリスクが大きいことが分かっているためだ。けいれんが収まるまで見守り、収まったら身体を横にしてあげるのが良いとされている。

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昔の欧州では「悪魔に憑りつかれた病気」