ただ、白目をむいて顔面が激しく引きつり、歯を食いしばって泡を吹く様を見ると介助者はパニックになってしまう。
「対処の仕方について調べていたとしても、実際の発作中の顔のようすやけいれんは、見たことがない人には想像ができない姿です。介助する側も我を忘れてしまい、必死のあまりに口を開けなきゃと手などを入れようとしてしまうケースは今もあります」(田所さん)
その様子から、古来、ヨーロッパでは「悪魔に憑りつかれた病気」と呼ばれた。日本では「キツネが憑いた」などと言われ差別的な扱いを受けた歴史がある。薬で発作を抑えることができている患者が増えた今でも、てんかんの理解が進んでいるとは言い難い。
「(発作の後)周りが急によそよそしい態度になって、それがつらく感じるという患者さんがいます。就職を断られたり、結婚に影響することもいまだにあります。パートナーにてんかんがあっても仲良く暮らしている夫婦や、職場の理解を得て働いている人も多くいるのですが、なかなか焦点が当たらないこともあり、てんかんがあることを言えない患者さんがとても多いのが現実です」(田所さん)
井筒親方は、酒はもともと好きではないことと、てんかんへの悪影響を考えてほとんど飲まず、運転免許の取得も控えたが、発作がまれだったため「もう大丈夫だろうと思ってずっと相撲をやってきた」という。発作の様子についても兄弟子たちは明るく話してくれた。周囲にも恵まれ、実力をつけて角界で出世を果たした。
そんな親方が、てんかんと向き合い始めたのはここ数年のこと。妻の友人が、発作を記録するアプリを開発した縁で、医療関係者や日本てんかん協会などとつながりができた。
当事者たちとのかかわりの中で気づいたことがある。てんかんを公にしてきた自分の姿勢や、明るく接してくれた兄弟子たちが「普通」ではないということだ。
「てんかんの持病を隠している人、てんかんをもっと知ってほしいと願っている人がたくさんいるのだと感じました。確かに、悲惨な交通事故のときに焦点が当たったりとネガティブなイメージを持たれがちで、言いづらい状況なんだろうと思います」(井筒親方)