大相撲の人気力士で、一昨年に引退した元豊ノ島の井筒親方(39)。断髪式が行われた今年5月、子どものころから「てんかん発作」の持病を抱えていたこと、引退後はてんかん患者のために活動をしていくことが報じられ注目を集めた。ところが当の井筒親方に話を聞くと「てんかんのことを良く知らずに生きてきた」そうで、活動をしていくにあたり病気のことを学んでいる最中だという。当事者なのに、なぜ病気のことを“知らない”のか。世の中にあまり知られていないてんかんという病気の特性と、親方の思いを取材した。
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東京・両国にある時津風部屋で記者と向き合った親方は開口一番、こう切り出した。
「てんかんの持病は子どものころから隠していなくて、大相撲の入門時も公にしてきました。ただ、僕自身、てんかんのことをよく知らずに生きてきたんです。ちゃんと知りたいと思って、自分なりに学んでいるところなんですよ」
親方自身が、てんかんの当事者でありながら、「よく知らずに生きてきた」のはなぜなのか。
親方がてんかん発作を初めて起こしたのは小学校2年のときだ。冬休みだったか、朝に目が覚めてトイレに行き、母親から朝ごはんを食べるか聞かれた。
「まだ寝る」
その言葉を発した後、井筒親方の意識は途切れる。
翌朝。目が覚めたらなぜか病院のベッドにいて、母親がそばに寄り添っていた。
「おなかが空いた」
幼いがゆえに、事態がまったくのみ込めていなかった井筒親方。
「白目をむいて、口から泡を吹いてけいれんした」。後から親にそう聞かされた。検査の結果、脳波に異常が見つかり、てんかんだと分かった。
親方が自身の症状を「よく知らずに生きてきた」という理由のヒントがここにある。
日本てんかん協会の田所裕二・事務局長によると、てんかん発作は脳の中で異常な電気活動が起きることで生じる。親方のような大きな発作もあれば、少しだけぼーっと遠くを見つめたり、立ち上がってさまよい歩くなど発作とは気づかれにくいケースもある。