撮影:榎並悦子
撮影:榎並悦子

 夏には「ドリー」という祭りが行われる。

「日本の農村地帯のお祭りみたいに、害虫に田んぼがやられないように神様を鎮め、豊作を祈るんです」

 女性たちがえんじ色に紺を配したスカート姿で伝統的な踊りを披露するほか、「綱引きもあって、ほんとうに日本の運動会みたい」。

 祭り会場の一角には儀式の場が設けられ、牛や鶏がささげられる。

「アパタニの土着の宗教はアミニズムというか、精霊信仰なんです」と、榎並さんは説明し、こう続けた。

「そこにキリスト教がどんどん入ってきた。若い人は圧倒的にキリスト教の信者が多くて、ミョウコウ祭りにもあまり関心がない。動物を生贄にするのはかわいそう、と言う」

■ほんとうに日の丸

 そんな伝統文化喪失への危機感を背景に広まりつつある宗教が「ドニポロ」だという。

「いわば『リバイバル宗教』で、それまで口伝だった土着の宗教の祈祷(きとう)の言葉を文字にして、この世界でいちばんのエネルギーのあるものとして、太陽と月をあがめるんです」

撮影:榎並悦子
撮影:榎並悦子

「ネロ」と呼ばれるドニポロの集会所のあちらこちらには太陽と月が描かれている。

「実は日章旗に似た旗はドニポロのシンボルフラッグで、太陽が描かれている。だから、ほんとうに日の丸なんです」

 榎並さんは日曜日に集会所を訪れ、熱心に祈りをささげる年配の信者の姿を撮影した。鼻栓をした女性たちの姿も見える。

「私が泊めてもらっている家のおばあちゃんもドニポロなんですよ。毎朝、何人か集まって、卵をゆでて、割り、その割れ方で占いをしていました」

 なんともほほえましい光景だが、それも消えゆく文化なのかもしれない。

「それは行く前から意識していました。ほんと、世界は広いな、と思うし、確実にこういう人たちがいた。その証として、撮っておきたい、という気持ちがあったんです」

(文・アサヒカメラ米倉昭仁)

【MEMO】榎並悦子写真展「APATANI STYLE」
ニコンプラザ東京 ニコンサロン 9月28日~10月11日

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