古賀茂明氏
古賀茂明氏
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 参議院選挙終盤に安倍晋三元首相が殺害され、日本全土に大きな動揺が広がった。

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 安倍氏は毀誉褒貶の多い政治家だが、銃による殺害という悲劇的な最期を遂げたことで、世の中は安倍氏に同情的な雰囲気に支配された。

 そのため、臆病な大手メディアの記者たちにとって、安倍氏に批判的なコメントをするのはかなり難しくなり、安倍氏に好意的な報道が圧倒的に多くなったようだ。

 例えば、最近かなり広がっていたアベノミクスの失敗、北方領土と拉致問題解決の失敗などへの批判は、今回は触れられても形だけ。全体としてはより前向きなトーンで伝えたいという偏ったメディアの姿勢は明らかだ。

 中でも特に気になったのは、「安倍外交」に関する報道だ。北方領土や拉致問題以外については、ほぼ無条件の「礼賛」状態である。日米同盟の強化、集団的自衛権の行使容認、防衛費の増額などの防衛政策の大転換について、批判的な論調は見られない。また、「自由で開かれたインド太平洋構想」を最初に提唱したのは安倍氏だとして、今日のクアッド(米豪印日4カ国の協力の枠組み)や最近発足した新たな経済協力とルール策定を目的とするインド太平洋経済枠組み(IPEF)なども安倍氏の考えが反映されたと喧伝された。

 こうした評価の信憑性を高めるために使われたのが、米国政府高官や米国有識者たちのコメントだ。彼らは安倍氏を卓越した国際社会のリーダーだと持ち上げた。これらの報道を見て、安倍氏が世界の中での日本の立場を高め、列強の仲間入りをさせてくれたと誇らしく思った国民も多いだろう。しかし、そこには大きなリスクが潜む。

 世界では、普段のニュースに日本が登場することはほとんどなく、日本に関心を持つ記者は極めて少数だ。したがって、安倍氏の評価を書くには、米国政府やいわゆるジャパンハンドラー(知日派と言われるが、その実態は米国が日本を飼いならすことに貢献している人々)が流す最大級の安倍氏への賛辞に頼ってしまう。もちろん、米政府などの安倍氏の評価基準は米国の国益であって日本の国益ではない。

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