東京五輪の競泳女子400メートル個人メドレーで金メダルに輝いた大橋悠依(イトマン東進)。子どものころはそこまで目立つ選手ではなかったが、地道にコツコツと力を伸ばし快挙を達成した。かつて指導した恩師も「嬉しいし、びっくりです」と感無量だった。
滋賀県出身で、三姉妹の末っ子の大橋。彦根市のスイミングスクールに入ったのは幼稚園の時だ。小学校3年の時から高校時代までを指導した奥谷直史さん(現・堅田イトマンスポーツクラブ所長)は、出会った頃の大橋を、
「20人ほどいた同年代の子供たちの中でも、特に目立つ存在ではなかったんです。スラっとして背は高い方ではありましたが、身体が細くパワーはなかったと思います」
と振り返る。
ただ一つ、抜きんでていたのは、努力を続けられる“超真面目”さ、だった。
「野球で例えるなら素振りのような地味な反復練習をさせると、どの子どもも終盤あたりで飽きて手を抜いてしまうことがありました。そこはみんな子どもですからね。ただ、大橋だけはどんな地味な練習でも、きっちり最後までやり抜くんです。パワーがない分、コツコツと技術を鍛えて力をつけ、ジュニアオリンピックに出るようになりました。中学、高校時代も同じようにコツコツと、一つひとつ、目標タイムをクリアしていきました」(奥谷さん)
普段は明るいが、試合前になると顔つきが変わりスイッチが入る。ただ奥谷さんは、大橋の意外な一面も知った。
高校時代、大きな大会の遠征先のホテルで、部屋が隣り同士になったことがあったが、試合前日の夜9時ごろだったか、隣の部屋から歌が聞こえてきた。
その歌は、しばらく続いた。
「翌日、大橋に自分で歌ってたのかって聞くと、『そうです』と笑うんです。曲は嵐だったかな……なんだったのか分かりませんが、まじめな一方で、自分をリラックスさせようとこういう工夫もするんだなと、感心しました。もしかすると、好きで歌ってただけかもしれませんけどね(笑)」