■ガランとした休日の竹下通り
そんな光景が一変するのは20年4月から。
「早朝に撮ったんだろう、と言われないように、ちゃんと時刻を記録して、写真のキャプションに入れています」
4月26日13:36、JR池袋駅。山手線のホームには、人の姿はまったくない。
いちばん不気味に感じたのはガランとした休日の竹下通り。ド派手な青空と店の看板がそれを際立たせている。
「前に同じ場所を同じ構図で撮影していますけれど、ありえない絵ですね。あんなに人がいっぱいいたのに」
当然のことながら、撮影を始めたころはまったく同じ場所を再び撮るとは夢にも思わなかった。
「以前に撮った写真のプリントを持って現場に行って、それを見ながら、うろうろするうちに、(ここで撮ったな)、と思い出すんです」
10月の渋谷ハロウィーンの写真を見ると、だいぶ人が戻ってきたような気がする。
「でも、やっぱり、スカスカなんですよ。コスプレしているお姉さんが何かやっていて、みんな、それをワーッと撮っている。警備の人が、『密にならないでください』と言って、一生懸命に拡散する。それが、超広角レンズゆえに一枚の写真にすべて写り込んでいる」
小野寺さん自身、「今回、写真の中にすごくいっぱい情報が出てきて驚いた」と言う。
■無言で初日の出を撮る人々
作品は浅草寺の年越しのシーンで終わりかと思いきや、最後にもう一枚、今年の元旦、羽田空港近くの城南島で撮影した初日の出の風景があった。
「いつもなら砂浜を開放するのが、『コロナ対策で今年は開放しません、クローズです』とアナウンスしている。そうしたら、みんなその柵の際まで行って、逆に密になっちゃった。そこで一生懸命スマホで、無言で初日の出を撮る人たち。このコロナの世界を象徴するような一枚です」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)
写真集『東京群集』(A4版、128ページ、無線綴じ、3000円・税別)はインターネットの販売サイトBASEほか、印刷会社イニュニックでも取り扱っている。