■ひと駅違うと、人がぜんぜん違う
撮影を始めた理由をさらに聞いていくと、「ストレンジ」「キュリオス(奇妙な)」というキーワードを口にする。
「野良桜のときもそうなんですけど、『ネーティブ東京』として育って、ずっと住んでいるのに、いまだに東京はストレンジ、キュリオスという視点を持っています。とにかく、不思議だな、と」
今回の不思議の発端はJR山手線だった。
「ひと駅違うと、そこにいる人たちがぜんぜん違うじゃないですか。例えば、渋谷と原宿って、似ているようでそこを訪れる人間のベクトルがぜんぜん違う。渋谷と恵比寿、新宿と大久保もそう。歩いて行ける距離なのに、その集団性って、なんでこんなに変わるんだろう、とずっと不思議に思っていた。ならば、さまざまなイベントの場所を訪れて、東京ならではの群集を観察してみよう、と思ったんです」
撮影範囲を23区内に限っているのは、以前からの小野寺さんの撮影ルール。「まあ、金がない、というのもあるんですけど(笑)」。
「いまはインターネットの時代だから、その情報で人がワーッと行く。『東京でこんなイベントがあります』と、紹介するサイトがあるじゃないですか。それをしょっちゅうチェックして行ったんです。最初は18年夏。盆踊りとか、花火大会とか」
■首都高速の下で大盆踊り大会
おかしかったのは、「もともと、人ごみ、好きじゃないし。ぜんぜん興味のないところばかりです」と言いつつも、それをよく観察していること。
「あちこちの盆踊りに行きましたけれど、それぞれの場所にそれぞれの工夫ってあるのだな、と」
秋葉原に近い神田明神納涼盆踊りにはDJやアイドルグループが参加し、場を盛り上げている。
「全部が全部、いまだに東京音頭をやっているわけじゃなくて。こういうDJを呼ぶようなところだと、若い人がすごくいっぱいいる」
圧巻は、すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り。
「これ、首都高速の高架の下ですよ。2万人くらいいました。ここでなぜか大阪の河内音頭を踊るんです」
身近に思える東京にはまだまだ知らないことが山ほどあることに気づかされる。
ほか、明治神宮の初詣、中野サンプラザの成人式、池上本門寺の節分、上野公園の花見、渋谷スクランブル交差点、原宿竹下通りなどなど。どの写真も人であふれかえっている。
「でも、写っている『人』とは一切コミュニケーションしていない。要は興味があるのは群集であって、個人ではない。そこに集まった人たちの属性を観察するように写したかったんです」